新入生諸君に

学部長から贈る言葉

医学部長  石川  隆俊 教授

来年度から面接試験を導入

 医学部では来年度の入試から前期試験にも面接試験を導入します。それを通じて医学に向く人をとりたいと考えています。医学に向く人というのはどういう人かと言えば、まず信念を強く持って、医学をやるという心構えをはっきりと持っている人。そして患者さんを診るのですから、やはり人に対する愛着を持っている人です。
 しかし一方で医学はやはりサイエンスですから、サイエンスに対する真面目な態度も重要な要素です。医学で一番大切なのは病気の原理を十分研究して、病気を治す方法を考えることです。だから基本的な学問というのも、どうしても必要になってくるのです。東大生の特徴として、学問が好きで偏差値も高く、研究や新しいものを開発するのに向いている人が多いと言えます。大学別にそれぞれの使命があるとすれば、東大の使命は開発方面で先進的な役割をすることと言えると思います。その意味では学問に対する熱心さも、医学部の学生にとって大事な要素です。

物事に対する憧れを失うな

 最近は医者の倫理などが取り沙汰されていますが、それは別に医者に限らず、すべての人に必要なことだと思います。どんな仕事をするにしても、人間を相手にするからには人間に対する愛着がなくてはいけません。人間に対する愛着が少なくなってきていること。それが現代の若者を見ていて感じることですね。それがいじめや自殺などといった問題にも関係しているのではないでしょうか。
 また、今は世の中が豊かになってあらゆるものが簡単に手に入るようになり、苦労が足りないということを感じます。ものごとに対する憧れが足りないとも言えます。私が学生のころは、自由に勉強ができるということも一つの憧れでした。今ではそれが当たり前のことになってしまって、結局それが情熱の欠如につながっているのではないでしょうか。
 学問ができるということは決して当たり前のことではありません。それがどんなに素晴らしいことであるか、それを決して忘れないでもらいたいです。ここにいて好きな研究ができる、それがどんなに幸せなことであるか、それを大切にしてほしいと思います。

何でも話せる友人を持て

 教養学部というのは非常に優れた制度です。確かに、すぐに専門に進めないという点ではいらだつ面もあるかもしれませんが、専門と一見関係のないように見える学問を勉強することを通して、人間形成に努めてほしいと思います。医学でもサイエンスが基本ではありますが、人間学という側面が強いのです。人間自身の学問とも言えます。だから、理系の勉強ばかりするのではなく、社会学や文学などにも興味を持って幅広く勉強してほしいと思います。特に古典など、よく本を読んでもらいたいですね。
 駒場の時期というのは悩む時期です。悩むのが当たり前なのです。そういうときに助けてくれる友達が必要です。また、友達がおかしいときにいち早く見つけてあげること。今の若い人は友達が少ないのではないかと思います。それもやはり人間に対する愛着が少なくなっていることに起因しているのかもしれません。そういう意味では、駒場時代に良き友人関係をつくっておくことが非常に大切です。良き友をつくるということほど大事なことはありません。そのためにも専門の勉強ばかりに没頭するのではなく、幅広い勉強をして、また芸術やスポーツなどいろいろな活動に参加することも重要だと言えます。

夢と情熱を持って前進を

 また、何か目標を持ってほしいと思います。人間というのは、あの人のようになりたい、というところから自分を形成していくものではないでしょうか。それが力になるのです。東大生の傾向として、合格してから目標を失ってしまう人もいるようですが、誰か身近な人でも目標に立てて、常に夢と情熱を持って前進していくことが大切だと思います。
 東大の学生は負荷がかかると強いのです。それは裏返して言えば、負荷がかからないと力を発揮できないとも言えます。常に力を持続的に発揮するためには、自分に意識的に負荷をかけることが必要です。駒場時代には、自分に負荷をかける練習をしてほしいと思います。多く苦労することです。そしてただ受動的な生活をするのではなく、積極的に何でも自分でやろうと、自分で学ぼうとする習慣をつけてもらいたいです。そういう人が前進、発展する人だと思います。
 大学で学ぶことは、あくまでも一つの学問の形です。方向を示すだけです。あとは自分で応用させていかなければいけません。学問というのは最後は自分で作っていくものなのです。皆さん、ぜひ真のエリートとなって下さい。