惑星科学のすすめ

1969年:惑星科学の夜明け

1969年に重大事件発生

 現在の大学生の中には1969年以降に生れた人が多いわけだが、その年には今日の惑星科学を一大学問に成らしめたとも言える重大事件が起こった。そこでは我が国日本とアメリカが大きな貢献をしている。

3.1  炭素質コンドライトの大量落下

 前回も紹介したように、炭素質コンドライトというのは太陽系において非常に原始的であると考えられているが、研究用に入手できる量は非常に少なかった。最も原始的といわれていたCIコンドライトは現在でも非常に希少だが、CMおよびCVといわれる炭素質コンドライトは、1969年に落ちた二つの隕石のおかげもあって、現在多くの研究者に供している。ちなみに、Cは炭素質(Carbonaceous)の略で、MとかVはおのおののグループ内の代表的な隕石名の頭文字を取っただけである。更に岩石の変成度を記載するために1から6までの番号がつけられ、3が最も変成度が少なく、3から2、1と減るにつれて水質変成度が増し、4、5、6と増えるにつれて熱変成度が増していく。

隕石中のCAIから重大な発見

 一つはメキシコのアエンデという村に2月8日に落ちたCV3コンドライトで、地名を取ってアエンデ隕石と呼ばれている。この隕石は巨大なもので、回収された重量だけでも2トン以上ある。このアエンデ隕石にはコントリュールとマトリックス以外に、白い含有物があり、CaとAlに富んだ高温鉱物が多く含まれているのでCAI(Ca-Al-rich Inclusion)と呼ばれている。以下に述べるように、このCAIは太陽系物質の起源を考える上で非常に大きな貢献をした。
 前回述べたように、太陽系は塵とガスの混合体が回転しながら凝縮してできたと考えられている。宇宙が始まった頃の古くから存在する水素ガス以外のガスや固体は高圧下、すなわち恒星の内部でないと出来ないので、自然とその塵も他の恒星内部で出来て、その恒星が爆発してから飛び散ったと考えられる。アエンデ隕石中のCAIに含まれる酸素同位体の質量数17と18のものが、最も豊富な16に対してどれだけ存在するかを測ってみると、地球のものとは全く違う事が分かった。地球の物質の酸素同位対比を、平均的な海水の値とのずれで測り、酸素17のずれを縦軸に、酸素18のずれを横軸にとると、地球の物質の酸素同位体値は傾きが約0.5の直線に乗る。それは、酸素が異なる相の間で動く時に質量の違いが動きやすさに影響するからである。ところが、アエンデの中のいろいろなCAIの酸素同位体を測ると、傾き0.5の直線上に乗らないばかりか、傾きが約1.0の直線に乗るのである。このことは、それらのCAIが同一天体で共に生成されたのではなく、太陽系星雲の別々の場所で固まったもので、塵が元々作られた恒星が異なるために酸素同位対比が違うと考えられる。傾きが1の直線に乗るのは、二つの恒星から来た二種類の酸素同位対比が存在して、それらがある比で混ざった時にそのような直線に乗る同位対比を持つ物質がいろいろ出来るという説明がもっともらしい。

隕石の加熱変化を利用して研究

 同じ1969年の9月28日に、オーストラリアのマーチソンという所に100kgという比較的大きな隕石が落ちた。このマーチソン隕石はCM2コンドライトと呼ばれ、その2という数字から分かるように水質変成を受けて出来た鉱物、特に層状珪酸塩が多く含有されている。そのような加水鉱物は、加熱するとだんだん水分を失って別の鉱物に変わっていくが、大部分の元素は不揮発性なので残る。マーチソンの酸素同位体は地球のものとはもちろん違うが他のCM2隕石と共に0.5の傾きの直線に乗る。それはCM2コンドライトが同一の母天体または母天体集団から来た事を示唆する。ところが、マーチソンを加熱するとその値がずれて、その直線から外れてしまう。このことは、マーチソンの母天体でマーチソンを水質変成させた氷か水は、他の鉱物とは異なる酸素同位対比を持っていた事を示唆する。
 このように太陽系の太古の詳細な情報を秘めた炭素質隕石が大量に落ちて来た事で、より物質に根付いた惑星科学への移行の契機になり、隕石学者や鉱物学者が惑星科学に貢献できる大きな機会が出来た。
        (つづく)

 (昭和63年大学院理学系研究科博士課程修了)


ハイデ・フィリップさん

社会科学研究所 研究員
ハイデ・フィリップさん(独)

良い先生と文献が揃う

 フィリップさんは日本で生まれた。両親が仕事で日本に滞在しているときに生まれたそうだ。その後、3歳のとき、ドイツへ帰ったが、大学では日本学を学ぶなど、日本と関わりを持ち続けてきた。
 現在は社会科学研究所で環境法律について博士論文を書いている。環境問題を未然防止する法律があるのかについて、研究しているとのこと。
 東大の印象について聞いてみると、「文献が見つけられるし、良い先生もいて、いいと思う」と話してくれた。日本人については、一般的に良い印象を持っているとのこと。ドイツ人と比べることは、「スタンスが違うわけだし、個人によっても違うから難しい」と言っていた。
 フィリップさんの趣味は音楽や映画。そして居酒屋に行くことも楽しいと話していた。
 最後に日本の青少年問題について聞いてみたところ、「はっきりわからないが、学校や家庭から圧力がかかっているのではないかと思う。本当に家庭を大切にしているのだろうか」と述べた。いじめについても、「ドイツでは日本のようにニュースでは取り上げられないが、実際にはあると思う」と言っていた。

 ドイツ出身。マールブルク大学日本研究センターで講師を務めていた。今年の4月に来日。現在、本学社会科学研究所で研究員として学んでいる。