日本経済の行方・環境問題に注目

東大教官・99年の三大関心事

 1999年新しい年を迎えた。昨年は相次ぐ金融機関の不振、官僚の不祥事、そして毒物混入事件など暗いニュースが多かった。「経済は一流」と言われた日本の経済にもかげりが見え始めている。今年は一体どんな年になるのだろうか。低迷する日本の経済に回復のきざしは見えるのだろうか。今回も本学の教官に今年の三大関心事について聞いてみた。今年は年明けに誕生した「ユーロ」に対する展望と、やはり経済に関する回答が多かった。

◎小谷俊介教授

(工学系研究科、建築学専攻)

日本の教育の劣化  アメリカでは、理科系に進学する学生の養成に失敗した反省と、インターネット社会に対応できる人間を育てる必要から、高校までの教育制度を大きく変えようとしている。日本はアメリカの悪かった部分を手本とした理科系軽視の教育に変えようとしている。大学としては、最低の知識と技術と思考方法を習得したと認定できる学生にしか卒業を認めないという、当たり前のことを実行して、自衛する必要を感じる。
国際化対応の遅れ  ヨーロッパ連合の成立とその内部の制度改革には目を見張るものがある。そこで作られてきた諸基準が国際基準機構(ISO)を通して世界の基準になろうとしている。アメリカは重い腰をあげて、これに対して真剣に取り組み始めた。語学力の弱さによる日本の対応の遅れが気になる。
インターネット社会  電話料金が高いことがネックとなって、日本におけるインターネットの利用が世界に対して顕著な立ち遅れを示している。このインターネットの提供する豊富な情報を活用しないで、無駄な時間を浪費して旧来の方法で情報を検索しているのでは、世界との競争に勝てないであろう。


◎澤田嗣郎教授

(工学系研究科、応用化学専攻)

日本経済の行方  我が国の経済はもはや二流となった。世界各国はそう見ている。せめて科学技術は世界一流であって欲しいものだ。
政界再編の行方  不況の元凶の要因の一つは、政治家の無策にある。一日も早く信頼できる政治をとりもどしたいものだ。
科学技術振興策の行方  インフラ整備まがいの科学技術政策ではなく、真に我が国独自の科学技術の推進のための投資を願う。


◎秋元肇教授

(理学系研究科、化学専攻)

地球温暖化の顕在化  温室効果ガスの増加に起因する地球温暖化が過去百年の自然変動幅を越え、誰れの目にも明らかに見えてくる。
研究機関のエイジェンシー化  国立研究機関のエイジェンシー化が本決まりとなり、国立大学についても検討が始まっている。科学・科学技術の発展に向けてエイジェンシー化の実体を明らかにする必要がある。
ユーロ誕生とアジア経済  ユーロが誕生して米・欧の二極構造がはっきりしてきた。この谷間で如何なる戦略の下でアジア経済は生きのびられるか。


◎小林洋司教授

(農学生命科学研究科、森林科学専攻)

地球温暖化と環境問題  1998年のブエノスアイレスにおける地球環境会議は南北問題ということで、CO2削減目標の合意に至らなかったが、この問題は、森林のあり方と合わせ重要な問題である。森林整備も林業の産業としての基盤の揺らぎから、ままならない状況である。新たなる森林整備のための環境税などの資金源の導入が必要となろう。
行政改革のこと  政府は、行政改革として省庁の縮小と研究機関、大学などの独立部局化、民営化を打ち出しているが、金融、住専などの資金投入のことを考えれば、逆に今こそ公務員を増やし、行政サービスを充実させることの方が重要であり、このことが失業対策にもつながることである。
ダイオキシン発生とゴミ問題  都市のゴミ問題とダイオキシン発生などの環境問題はますます大きな問題となる。ゴミのリサイクル、ゴミ処理の技術など科学技術による解決が重要な課題である。


◎岩田一政教授

(総合文化研究科、国際社会科学専攻)

金融不良債権の行方  銀行のみならず、保険会社にも多くの問題が残っている。
ユーロの将来  99年に発足したユーロの将来について、欧州中央銀行制度、財政政策など課題が残っている。
北朝鮮の核問題  内部の政治的結束は堅固だが、経済的な行きづまりを引き金として朝鮮半島に波乱がありえる。


◎山脇道夫教授

(工学系システム量子工学専攻)

新エネルギーの実用化  核融合炉の実用化、核分裂炉の高度化。
地球温暖化の防止対策  材料開発を通して寄与したい。
経済・金融改革のゆくえ  日本経済を早く建て直すことが緊要。


◎矢島美寛教授

(経済学研究科、経済理論専攻)

地球環境問題  多くの識者が既に指摘されていることでいまさら付け加えることはありません。
経済問題  一昨年に続き、昨年も外にあってはロシア危機、ロングタームキャピタルマネージメントの損失、内にあっては日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の国有化、失業率の悪化など枚挙に暇のない経済問題が噴出しました。
 地球規模の情報化社会において、何を市場に任せ、一方で国際機関、政府はどのような役割を果たすべきかを明らかにし、実行することが焦眉の課題であると思います。
大学改革  今後ますます、大学における教育、研究の質が問われるようになると思います。
 とりわけ財政逼迫の折、1兆5000億円近くに上る国立学校特別会計(一般会計からの受け入れ分)により運営されている国立大学は国民への説明責任(アカウンタビリティ)を十分に果たさなければならないと考えます。


◎土田龍太郎教授

(人文社会学研究科、印度語印度文学専攻)

皇室問題  皇室否定論者が皇室問題を論ふのは矛盾してゐる。
憲法問題  現行憲法の是否を言ふまへに憲法といふ外来の制度が果して日本の國権に適ふものかどうか考へるべきであらう。日本人にとつて本當に大切なものは憲法といふ枠では捉へることはできない。
外國人問題  國籍の別は大切である。安易な平等主義は現實の不平等をもたらす。 


 新聞の役割が問い直されている。速報性ではテレビやインターネットに勝てない。周りの友人を見ても日刊紙をていねいに読んでいる者は少ない。「日刊紙もインターネットで読めるしね」と必要な情報はすべてパソコンからという友人もいる先日、ある隔週雑誌で「新聞への不満・注文・大疑問」という特集が組まれていた。そこでは、新聞に求められている独自の役割分担は解説と論評だという意見があった。また、今の新聞の安易な点は右へならえの大合唱で主張めかしい報道をすること、という厳しい見方もあった。日本在住のあるフランス人ジャーナリストは「日本の新聞は独自のスタンスがないし、オピニオンも少ない。新聞は時間をかけてもいいからニュースを分析してほしい」と語っていた本紙は旬刊紙である。日刊紙よりさらに突っ込んだ解説と論評が求められる。また、学生ならではの切り口が期待されているだろう。学内のニュースペーパーとしての役割を果たすことはもちろんのこと、学生と教官・OBを繋ぐコミュニティーペーパー、そして何より、正しく鋭い解説と論評をするオピニオンペーパーとして読者のみなさんを満足させるとともに、今年もさらに本学に貢献していかねばと改めて感じさせられた。