淡青手帳

第847号(2001年12月5日号)

 通信技術やOA技術は進歩を重ねた。これにより社会全体が受けた恩恵は図り知れない。しかし、社会の急激な変化にはどこか漠然とした不安がつきまとう。

 研究室の教官から、昔の苦労話を聞くことがある。かつてはわずかな情報を頼りに、目当ての書籍を求めて書店を巡り歩き、海外の論文を理解するためその言語を学んだ。理工系なら実験結果のまとめや図面の作成に無数の計算はつきものだった。

 しかし今、これらはパソコンで瞬時になされてしまう。確かに、検索機能や翻訳機能を備えたホームページ、グラフや図面作成用ソフトの類は枚挙に暇がない。パソコンがなかった頃の十数年分の仕事が、今ならほんの一週間程度でできてしまうケースもあるという。笑って済ますことのできない話である。

 通信技術が進展を極め、伝えたい内容は意のままに伝達され、求める情報は即刻入手できる時代が訪れるかも知れない。こうした技術の進展が極限に達した時、大学のあり方は変わらざるを得ないし、いくつかの産業は淘汰されるだろう。そしてその時には、人の能力や業績に対する評価基準も変わるに違いない。

 どの時代にあっても変わることのない人間の普遍的価値とは何か。これを探求し、身につけていくことが大学時代には求められているように思う。

 

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