淡青手帳

第859号(2002年5月5日号)

 連休に帰省して、父親と酒を酌み交わした。会社を定年退職し、今は町内会の会長を任されてはりきっているらしい。言葉はあいかわらず威勢がいいが、いつのまにか背中も曲がり、白髪も目立つようになった。ずいぶん老けたものだと内心驚く。

 おまえもいい年だなという話から、やがて就職の話題になった。就職するのか、それとも研究を続けるのか。人生の岐路に立っている。これまでは、どちらかといえば、お金儲けとは無縁な世界で生きてきた。ただやりたいから、好きだから、そんな理由でむしろお金をかけてでもやりたいことをやってきた。三人兄弟の末っ子ということもあり、とりわけ好き放題させてもらったという実感がある。模型、音楽、コンピュータ。いろんなことをやってみた。大学にも行かせてもらった。

 それとは対照的に、二人の姉はずいぶんつましく生きてきた。仕事に就くや初任給で両親にプレゼントを贈ったりと、弟の目から見てもできた姉だと感じることが多くある。親の目から見て、頼りないのがまたかわいらしいのか、今までずいぶんかわいがられて大きくなったが、そろそろ独り立ちせねばと今さらながらに思う。

 どんな進路を取るにせよ、損得ぬきで投入した経験が活きる時が来る。そう自らに言い聞かせながら、帰途についた。

 

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