淡青手帳

第861号(2002年5月25日号)

 「アザーズ」という映画を見に行った。かつてヒットした「シックスセンス」のような目に見えない世界を描いたストーリーだが、単なる恐怖映画の域に留まるものではない。

 この不思議は映画の世界に限ったことではない。人間の五官で認知できずとも存在する世界というのはやはりあるもので、心はその一例といえるだろう。物にこめられた真心を人は敏感に感ずるし、高価なものでも真心がこもっていなければ自ずと知れるものだ。

 ある先輩が突然、編集部を訪れたことがある。紙面の手厳しい批評をされるのかと思いきや、編集部員一人一人を気遣う兄のように真心こめて話し、助言をしてくれたのだった。反論もなければ苦言もなかったが、どういうわけか、編集部員として、さらには人としての未熟さが照らし出されるかのような印象を受けたのを覚えている。

 振り返ったとき心に深く残っているものは、誰かと喜怒哀楽を共にしたことで培われた情関係であるように思う。身近な存在ほど欠点が見えやすいものだが、友人の抱えた事情や悩みまでも兄の立場で見つめ、心配することのできる情関係を育みたいものだ。学問や専門知識の習得も、そのような交友の基盤があってこそ、その価値を高めることができるのではないか。これもまた学生生活の目的に違いないと感じた。

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