淡青手帳

第874号(2002年11月25日号)

 創世神話は世界中に散在している。ギリシャ神話や北欧神話は、神あるいは巨人の肉体から世界が生まれたとしている。聖書や古事記では、創造の神が混沌から世界を造ったとしている。しかし、総じて言えそうなことは、世界の形成というイベントには神≠ニいう要素が大きく関わるというのが、古代人に共通の宇宙観だったようである。

 先日、ナノテクノロジーについての講演を聴く機会があった。ナノテクノロジーは、二つの大きな科学の流れの産物であり、その流れとは還元≠ニ統合≠ナあるそうだ。

 人類は古来から中世に至るまで自然を表象として捉えていた。しかし錬金術の出現以降、人類はアニミズム的自然観から自然科学的な自然観へと自然観を変えていった。自然科学の先駆である化学に始まり、自然科学は分析的に自然を細分化していった。これがすなわち還元≠ナある。自然を細分化し尽くし、原理を究明した次に現れた第三の自然観が、自然を新たに創造する統合%I自然観であると言えよう。

 自然を統合していく試みは今や化学に留まらず、物理学や生物学の分野でも行われている。人類は今日、まさにかつて古代人が思い描いていた神≠ノ代わる新たな創造主として、宇宙を再創造していると言えるのではないだろうか。

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