淡青手帳

第900号(2003年10月15日号)

 最近電車内でディズニー映画「ピノキオ」の広告を見た。子供の頃に何の気なしに見た記憶がある、そんな程度の映画だ。しかし、今改めて思い返してみると実に奥の深い映画だったなと感じた。

 ゼペットじいさんとピノキオはあくまで作家と作品で、血の絆で結ばれた濃い関係ではないが、ゼペットじいさんはピノキオを惜しみなく愛した。しかしピノキオはその愛に気付かず、悪い友達に誘われて一度は放蕩してしまう。物語の最後にピノキオは自分を作ってくれたゼペットじいさんの危機を命を賭して救い、それを見た女神様がピノキオを人間の子供として蘇らせる。こうしてゼペットじいさんとピノキオは作家と作品という関係を超えて親子の関係を結ぶようになる。

 昨今の日本社会では親子が殺しあうという信じられない事件が起きている。また生活様式の欧米化のためか、全体的に親子の間が昔に比べて疎遠になっている感がある。本来親子が愛し合うのにピノキオとゼペットじいさんが超えねばならなかったような壁は存在しない。しかし、苦労もせずに築ける関係であるがゆえに、その関係の大切さに気付かないでいるのだろうか?。

 家庭の支柱はなんと言っても親子の絆である。親子の絆は宿命的なもので尊く得難い。この関係を軽んじてはならない。

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