遠藤投手は今季、法大と明大から1勝ずつをあげて2勝(6敗)とし、リーグ戦の通算勝利数を8に伸ばした。東大投手陣の中で、このリーグ戦8勝というのは歴代5位タイの記録である。 東大の投手の中でこれまで最も勝ち星の多かったのは、東大の前工学部長でもあった岡村甫投手で17勝(34敗)、次いで東大の投手として唯一ノーヒットノーランを達成したことのある東武雄投手の16勝、勝率では歴代投手の中で最高を誇る山崎諭投手の11勝(12敗)、81年春のリーグでは5勝をあげ、『赤門旋風』の立て役者となった大山雄司投手の10勝と続く。8勝をあげた投手としては、遠藤の他に東大卒プロ第一号となった新治伸治投手、西山明彦投手、日米大学野球に出場した大越健介投手の三人がいるが、以上あげた投手はいずれも右腕投手であるため、遠藤は東大の左腕投手としては既に歴代一位の勝ち星をあげていることになる。ちなみに国立高校のエースとして甲子園大会出場を果たしたことのある市川武史投手は7勝、東大の『200勝』以降では最多の勝ち星をあげていた高橋崇展投手も7勝であった。なお、東京六大学リーグとしての記録は、元法大の投手で現在同校の監督でもある山中正竹投手の48勝(13敗)が最多。法大から巨人に進んだ江川卓投手は47勝(12敗)でこれに続いている。 遠藤投手がもう一つ、東大投手として第一位の記録をもっているのは、『連続シーズン勝利記録』である。遠藤のリーグ戦初勝利は96年の秋、立大二回戦でのことだが、遠藤はこの試合の五回、東大が3−1とリードした場面で二番手投手として登板、途中同点に追いつかれたものの最終回に突き放し、初勝利を手にしている。それ以降、97年春には立大から初の完投勝利となる1勝をあげ、同年秋にも立大から1勝、98年春には早大から1勝、同年秋には早大から2勝しており、さらに今季は法大と明大から1勝ずつをあげ、連続シーズン勝利記録を6に伸ばしている。これまでの記録を調べると、岡村甫投手が58年春から60年秋にかけてつくった連続6シーズンというのが最多であったが、遠藤は今季の勝利をもってこの記録に並んだことになる。ちなみに岡村投手の初勝利は58年春のことだが、このシーズンには3勝をマーク。以後同年秋には5勝、59年春に1勝、同年秋には2勝、60年春に3勝、同年秋には3勝と、6シーズンをかけて17勝を達成している。しかし、岡村投手は一年時には登板機会がなく、初勝利が二年時の春であったのに対し、遠藤投手は一年の春に初登板、同年秋には初勝利をあげているため、岡村投手よりも1シーズン早いペースで記録を作ったことになる。今秋のリーグ戦で遠藤投手が一つでも勝ち星をあげれば、7シーズン連続勝利という新記録が打ち立てられる。 東大の歴代投手の勝利を対戦校別に整理してみると、早慶明法立の5校全てに対して勝ち星をあげているのは、岡村甫投手と山崎諭投手のみである。遠藤投手は慶大を除く4校からは既に勝ち星をあげているため、秋季リーグ戦で慶大に1勝でもすれば、この記録でも歴代の大投手と肩を並べることになる。 岡村投手は右投げのアンダースロー。球速はなかったが変化球を自在にあやつるタイプで、当時の新聞には『打てそうで打てない球』と評されている。遠藤投手は左腕であるが、やはり球速よりも抜群の制球力と配球のうまさで勝負するタイプである。余談になるが、岡村投手の背番号は、現在遠藤投手がつけている背番号と同じ「17」であった。今秋のリーグ戦は遠藤にとって最終シーズンとなるが、岡村投手ら歴代投手の大記録にさらに近づき、またこれを塗り変える活躍を期待したい。
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