米国は今、人格教育推進 |
前回まで、「こころの教育」には何が必要であるかを見てきた。まとめれば、こころの教育には「父性」と「母性」、すなわち「規範教育」と「情操教育」が必要であるということになる。 |
わが国でまともな規範教育行われず まず、「規範教育」に関してだが、これまで見てきたように、わが国では日教組、日本教育学会、そして最近では山本直英氏や宮台真司氏に代表される無規範教育派が幅を利かし、まともな規範教育は行われてこなかった。そして今や、彼ら自身が手を焼くような「わがまま」生徒、「キレる」生徒が増大し、収拾がつかなくなっているのである。 米国で「非指示的」アプローチ広まる
米国では、1940年代に、カール・ロジャースというセラピストが「非指示的」アプローチをカウンセリングに持ち込み、学校教育にも大きな影響を与えた。ロジャースは、従来の伝統的なカウンセリングはカウンセラー中心的で指示的であると批判し、方向性を与えず善悪の判断をしない「非指示的アプローチ」によるカウンセリングを主張した。この方法は学校における価値教育に適用され、その結果、教師たちは善悪の価値に対して「非指示的」な態度をとるようになった。つまり、生徒たちに自分自身で価値を発見することを望み、大人たちは善悪の判断を下すことをやめるようになったのである。 当時多くの教育者がルソー主義だった
このことに関して、カール・ロジャースに詳しく、世界的に有名なキルパトリック・ボストンカレッジ教育学部教授はこう言う。「当時は実に多くの教育者たちが人間の本性に関して『ルソー主義』を取っていました。子どもたちは生まれながらに善であるとみられていたのです。もし子どもたちが内なる本性に触れられるよう導かれ、大人たちがその邪魔をしないように指導すれば、彼らの中に自然に備わった善性が力強く花開くだろうというのです。この考えは、依然としてアメリカの教育に根強く残っていますが、この考え方がもたらした害悪を、親や教師たちがますます認識するにつれ、急速に姿を消しつつあります」。 ルソーの主張は「自然のまま教育」
ルソーは『エミール』という教育小説を著し、「(人間は)万物をつくる者の手をはなれるとき、すべてはよいものであるが、人間の手にうつるとすべてが悪くなる」(今野一雄訳、岩波文庫、23頁)と述べて、子どもを自然のままに教育することを主張した。人間の自然能力の開発への妨害となる要因、すなわち既成の体系的文化や道徳的・宗教的観念の注入を除去しながら、人間を自然のままに成長させていくというのがルソーの主張する教育である。 性教育にも非指示的アプローチ
ロジャースの理論は60年代、70年代と、米国社会が混乱していくにつれて広まっていった。多くの米国人が過去の文化的価値観は継承するに価しないものと考えるようになり、青少年たちは自分たち独自の価値観を発展させたほうがよいと考えるようになったからである。 米国は「非指示的」でモラル崩壊助長
キルパトリック教授は、ロジャースの『自尊心』仮説は非常に疑問が残ると言う。「自尊心の高い子どもは『自分は正しい。そして、自分がしたいことは何でも正しい』と考えるでしょう。事実、多くの最近の研究は『自尊心』と『良い行動』は関連性がないことを示しています」と主張する。 わが国も米国の人格教育を見習おう
しかし、90年代に入って、善悪の価値を明確に示す「指示的アプローチ」を取り入れた「人格教育」が米国で注目を集めている。その推進の第一人者であるトーマス・リコーナー教授(ニューヨーク州立大学)は「人格教育は単なる価値や道徳を知るだけではなく、道徳や価値に対して深い関心を持ち、それに基づいて行動することを目指す」と、実践の中で体得させる教育方法をすすめている。 (つづく)
《東大新報「こころの教育」取材班》 |