リアルタイム で成果を書く
「ショウジョウバエを使った遺伝子解析による脳の研究」という東大の堀田先生の研究を、私が『サイアス』という雑誌に紹介したことがあります。今、脳の研究はショウジョウバエを使って行われています。ショウジョウバエは驚くべき研究材料です。ある遺伝子がどういう働きをしているのかを調べるために、その遺伝子を生体から取って別のものを入れたり、遺伝子を書き換えたりするのです。ショウジョウバエを使い、今までできなかった研究ができるようになりました。
今日は、このショウジョウバエの研究を通して、インターネットがどれほど役に立っているかを述べてみます。これはバーチャルライブラリーという、インターネット上の“仮想図書館”です。オックスフォード大学で作っているものですが、人文関係も含めて、あらゆる学術関係のサイトに行けるようになっています。一つ一つのサイトへ行くと、大変な情報量があります。
ショウジョウバエに関するホームページへ行くと、エンサイクロペディアという項目があって、そこにショウジョウバエの染色体地図の絵があります。その絵の上をクリックすると、その部分が拡大されて見えます。
ショウジョウバエの染色体には螺旋染色体という、同じ物が千回繰り返す場所があります。それを解析しているショウジョウバエの世界中の研究者たちが、インターネットを利用して、リアルタイムで成果を書き込んでいくのです。また遺伝子の名前を入れると、それに関する情報が即座に出てきます。
遺伝子の情報 も取り出せる
サイトの中に、“フライベース”というサイトがあります。日本にもミラーサイトがあり、世界中の研究者がアクセスしては、いろいろな情報を書き込んでいます。論文だけで八万の論文を見ることができ、世界中の五千人の研究者の電子メールアドレスが載っています。
ショウジョウバエは意外と高等な生物で、ショウジョウバエで見つかったことは、大体人間にも当てはまることが分かっています。ショウジョウバエを調べることで、対応関係によって人間の脳のことが分かります。今、ショウジョウバエの一万ある遺伝子のうち、七千の遺伝子についてクローンをつくって調べることができるようになっています。
このサイトでは、遺伝子の名前を入れてサーチをかけると、その情報が取り出せます。遺伝子の塩基配列を知ることもできます。インターネットを通してどんどん知識を集積しあって、お互いがそれを共有して研究を進めるのです。
コンプレック スもつ学会も
だが一方で、インターネットサイトコンプレックスというものがあります。これは、その学問領域が新しいか古いかによって違います。学問の領域では、学会の雑誌に何回論文が掲載されたかによって研究者が評価されます。だが、若い研究者はどんどんインターネットに研究の成果を載せたいのです。しかし、インターネットのサイトに載せた論文は、雑誌には載せないという学会もあります。
はじめは、Eメールを通じて成果をやり取りしていましたが、それでは面倒だということで、ホームページをつくってそこにみんなが書き込む形式にしました。昔は研究成果を雑誌に載せて、「これは私が先に発見したんだ」と競い合っていました。だが、今はEメールを研究者の間に流して、「これは自分が一番先に発見した」と告知するようになりました。天文学では、彗星の発見が秒単位で競われるし、素粒子研究の世界でも時間単位で発見が競われています。
講義内容を ネットで公開
私は教養学部で応用倫理学という授業を行っていますが、講義のホームページも作っています(http://www.komaba.ecc.u-tokyo.ac.jp/~ctakasi/)。ホームページの表面は掲示板のようにして使っています。つまり表に出ているのは氷山の一角で、その下にドーンと大きな情報が入っています。
講義のレジュメを、学生が二グループに分かれてインターネット上で競作しています。たとえばレジュメの中に、ニールス・ボーアの名前が出てきますが、これはリンクが張られていて、世界中のニールス・ボーアについてのサイトに飛ぶことができます。だから表面は単なる掲示板にすぎなくて、下の方に膨大な情報があるわけです。
グローバルブ レインの時代
今日の主題のグローバルブレインの話をしましょう。実は、「グローバルブレイン」(ピーター・ラッセル著、工作舎)という本があります。オリジナルは一九八二年に出来たのですが、日本では八五年に発行されました。この本には、宇宙飛行士のピーター・ラッセルという人の話がでてきます。この人は宇宙飛行士には珍しく、非常に深くものを考える人です(笑)。
彼は、人間はガイアの胎内にいた胎児であると言っています。宇宙に進出するということは、体の外に出ることと同じで、大きな意味を持つということになります。何億年に一回という大きな出来事を人類が体験しつつある。それが我々の時代だ、と彼は述べています。
生物の進化は、単細胞から多細胞、そして海から陸へと上がってきましたが、そのような大転換点にいるのが、我々の時代だというのです。我々はガイアにとって、個々の神経細胞に似たものです。ここで大事なことは、我々はガイアにとって神経細胞になりつつあるのか、それともある種の癌細胞になりつつあるのか、ということです。
この本が書かれたのは八二年なので、当時はまだ、コンピューターは今に比べると、無きが如きの状況でした。人間と人間のネットワークは、脳内の細胞を結ぶ無数の神経繊維に似ており、どんな瞬間でもグローバルネットワークを維持しています。彼がこれを書いて以降十四年経っているわけですが、驚くべき勢いで彼の予見が実現しています。
ちょうど社会が地球の神経系に似はじめています。グローバルブレインが活動しはじめているというのが、今の状況なのです。本が書かれた当時は、せいぜい電話やテレックスというネットワークしかなく、数百兆というネットワークが築かれている脳の神経細胞に比べたら物の数ではありませんでした。しかし現在、インターネットの上の情報のやり取りを通じてそれが実現されようとしています。
ブレイン? それとも癌?
グーテンベルグの印刷術発明以来、情報を書き、印刷して保存するということを、本または本的なものを通してなしてきたわけですが、今はどんどん情報を電子化して、かつては想像もつかないほど巨大化しつつあります。
人類の歴史を情報の観点から見ると、まず言葉以前の状態があり、次に音にする言葉ができ、文字ができ、印刷物ができて、それから今の電子メディアができました。社会全体で行っている情報処理の量を見ると、今という時代が如何に人類史の中で特異な時代であるか、ということが分かると思います。
我々の作っている神経系というのは、脳の神経系のオーダーにどんどん近づいていきつつあります。だが、人間にはどうでもいいような情報で頭がいっぱいになっている人と、有用な情報がつまっている人と二通りがあります(笑)。それと同じで、我々の持っているこのグローバルブレインもどういう内容をもっているかが重要になります。
それによって、人類がガイアのグローバルブレインになるのか、それともガイアの癌になってガイアを殺してガイアとともに死ぬのかが決まります。まさに大事な状況であると思います。
(文責編集部)
昨年秋、本紙に掲載した「満州事変−大東亜戦争の性格論議(林健太郎著「歴史からの警告」)に関する文献としては、「日本の近現代史と歴史教育」(東京大学教授・藤岡信勝氏著(「自由」一九九六年六月号)を挙げることができます。
本稿は、藤岡教授が冒頭に述べられている通り、「私は教育者ですから、歴史教育の改革という観点から考えてみたいと思います。実は、日本の近現代史は戦略論という眼鏡を掛けないと理解できません。恐らく、戦略論的な見方をしない限り、日本が明治維新以来なぜ、こうした歴史のコースを歩んできたのかということが分からないのです。子供達に理解させることが出来ないだけでなく、私自身もものごとの本質をとらえることが出来ないと思います(同誌一〇頁)」。
紙数の関係上、同氏の論文の全文を紹介することは困難ですから、同氏の論文のサブタイトルを順を追って掲げてみましょう。
◇−歴史の本質を教えない歴史教育
◇−「廃藩置県」の本質
◇−伊藤博文の「日の丸演説」と「廃藩置県」
◇−東京裁判史観とコミンテルン史観
◇−明治維新は武士が武士階級を廃絶した革命である
◇−明治維新はフランス革命より素晴らしい
◇−アメリカに二度降伏した日本
◇−なぜ、日露戦争が起きたのか
◇−日露戦争勝利後の二つの選択肢
◇−石橋湛山の主義の是非
◇−子供たちの感覚を生かした教育
私は、藤岡教授の右の論説は、歴史教育の改革の立場からして、日本の近現代史を見直したものとして大きく評価することができると思います。同教授の今後の論説の展開を期待してやみません。
昨年から今年にかけて出版された文献としては、阿川弘之氏編纂「高松宮日記一〜三巻」(平七年二月一五日、中央公論社発行)と「日本海軍史」(海軍歴史保存会編集、平七年一一月三〇日、第一法規出版株式会社発行)をあげることができます。何れも、浩瀚なものであり、目下精読中ですから、これらの梗概は后日の記述に譲りたいと思います。
結び
月日の経つのは早いもので、私が東大新報に憲法改正案を掲載したのが、平成六年(一九九四年)八月から九月にかけてのことでありました。その時に、私は、我が国の政治情勢等を考慮して、二一世紀(二〇〇一年)を目指して、憲法改正の準備にかかるべきであると考えました。今年は一九九六年です。二一世紀まで四年しか残されていません。
最近は「憲法、二一世紀に向けて、読売改正解説・資料」(平成六年一一月二八日第一冊、読売新聞社発行)や「平成の遂条新憲法論」(元参議院議長木村睦男著、平成四年四月二日、初版印刷、善本社刊行)などが発行されて、識者の間の憲法改正論議がさかんになったとはいえ、有力政党は政争に明け暮れて国策の基本論を成す憲法改正の論議は全く行われておりません。国民のこの問題に関する関心も薄く、甚だ憂慮にたえません。
私は、二一世紀を目指して、余生を、憲法改正の世論喚起と歴史教育の改革普及に捧げようと決意いたしております。先輩、同僚、後輩の皆さんの御支援・御鞭韃を賜わりたく、伏してお願いします。(了)
エイバリー
ストーンヘンジの北約三十キロの地点にあるエイバリーは、直径約四百三十メートルの巨大な溝と外側を囲む土手、その内側にある百個余りの巨石によるヨーロッパ最大のストーンサークル、その中にある南北二つの中規模のサークル、そのそれぞれの中心にある小さいサークル、及び南と西の入口から延びる二本のアヴェニューからなっている。十八世紀にウィリアム・スタックリーが描いたものを基に復元した図を見ると、ストーンサークルを頂点に、二・四キロに及ぶ二本のアヴェニューが、ほぼ三角形をなして広がっている。紀元前二八〇〇年頃に建造されたもので、当時ストーンサークルには少なくとも百八十個以上の、そしてアヴェニューの両側には四百個以上の巨石があったと推測されている。現在までにその殆どが運び去られたり、砕かれたりしてしまった。アヴェニューの二列の石は、十五メートル毎に置かれていた。片側には柱状の石、もう一方の側には菱形(或いは五角形、六角形)のずんぐりした石が向かい合って並んでおり、一対の男女を表わすものと考えられている。(日本テレビ 前掲書 “エイバリー”の項参照)
建造目的は未だ 明らかではない
エイバリーのストーンサークルの溝の深さは九メートル以上、土手の高さは六・四メートル程あり、土手もストーンサークルもストーンヘンジと同様に完全な円ではない。溝も土手も、言うまでもなく、蛇を象るものである。エイバリーを築いたのは、オランダやドイツのライン地方からやってきたビーカー族であろうと考えられている。建造目的は明らかではない。神を崇める場所であったろうというのが一般的である。しかし、その宗教については何も分からない。エイバリーのストーンサークルと土木工事は、例になく巨大なもので、その実用的な土木技術は、時代を越えて今日のものと比較できるという。(同上)
石柱はバアル神を表わし、円錐系の石はアシラ=アシタロテを象徴していた。いずれも男女の性器を象るものである。菱形は女性を表現する。男女の石が向かい合って立っているのは、エイバリーのアリニュマンだけではない。カルナックのアリニュマンにも、ストーンヘンジの青い石にも男女の石が見られる。
悪魔退治の儀式 だった巨石破壊
ヒッチングによると、エイバリーでは中世まで、教会の後援で二十五年毎に巨大な石を一つずつ取り外して打ち壊し、悪魔退治の儀式をしていたという。十七世紀になってこの記念物が発見され、広くその存在が知られるようになると、巨石攻撃は回数と激しさを増し、十八世紀には「石殺しのロビンソン」の名で知られた農夫が、毎週一回テコとハンマー、大槌と火による石の虐殺破壊パーティーを組織するに至ったという。
巨大な蛇形をな すアヴェニュー
エイバリーもまた、地図の上か、或いは、一定の高度から下を見下ろさなければ、その全貌を掴み得ない程広大なものである。“Roman Prints”の著者であるウィリアム・スタックリーは、アヴェニューが巨大な蛇の形をなしていることに気付いていた。巨大なサークルを頭にした蛇、或いは巨大な地球を我が物として所有している蛇の図。ウロボロス。或いはストーンサークルは、蛇か鳥の宇宙卵を表わしているのであろうか。蛇も鳥も、あの知の天使長ルシファーを表象している。偽の創造神を象徴する宇宙卵から生まれた巨人、デーモンを表わす巨石の群れ。それはドラコンティアを中心とするサタン信仰が実在していたことを証す記念物なのであろうか。或いは、それは蛇なるサタンを親とする堕落した男女が、サタン圏から開放されぬまま延々と未来に続く悲惨な姿、人類史の真実を証す記念物なのであろうか。一つの卵から生まれた沢山の蛇の群れと見たカルナックのアリニュマンも、それではエイバリーと同じ内容を表現しているのであろう。
巨人は偽の創造 神サタンを表現
創造神話には死体化生型と呼ばれる話型がある。混沌の初めにいた宇宙的巨人が死んだ後、その死体の各部から天地万物が生じたというもので、中国の盤古やインドのプルシャ(原人)神話がそれである。エッダの神話では、神々が邪悪な巨人ユミルを退治して、その死体から天地が創造される。神々も人間もユミルの後孫であるが、ユミルは神々を生む前に邪悪な霜の巨人族を生んでいる。マルドゥクは海竜ティアマトを退治して、その死体から天地を創造した。原初の混沌状態は宇宙卵に比せられるが、巨人はここから現われる。巨人ユミルは、明らかに偽の創造神サタンである。巨人はサタン圏の主であるサタンを表わし、また、その血統に繋がるデーモンや人類全てを表現すると見てよかろう。
ストーンヘンジもエイバリーも、構造的にはサークルとアヴェニューで構成されている。スコット・エリオットは、ダウジングによって彼が調査した全てのストーンサークルには、そこに至る両側に石の並んだ道があったことを発見している。彼はまた、自分の調査結果がまだ発掘によって証明されていないという理由で、公表こそしていないが、全て或いは殆どのストーンサークルには、通常その地下二〇〜三〇フィートの間にある断層と、おそらく関係していると思われる力の場があるらしいと考えている、とヒッチングは言っている。
(つづく)
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