本学核研、高エネ研など統合へ

文部省概算要求盛り込む

 文部省は、平成九年度概算要求に「高エネルギー加速器研究機構(仮称)」を創設するための費用を盛り込み、計画の推進準備に取り組んでいる。これは、高エネルギー物理学研究所と本学原子核研究所、本学理学部附属中間子科学研究センターの三つを、一つに統合して創設するもの。それぞれの研究施設は、物質を形成している素粒子や原子核の物質を探る研究領域で、日本をリードしてきた。

 今回の統合は、@三研究機関の研究領域について交差する部分が大きくなってきたこと、A加速器科学分野における総合的な研究機関に関する調査委員会の中間まとめが得られたこと、などを受けたもの。素粒子や原子核物理における最先端の物理学研究には、粒子を加速して衝突させる巨大加速器や大規模な実験装置が不可欠であり、多くの人員も必要とする。そのため、施設を共有化して効率をあげ、より広範囲で大規模な研究を推進していく必要がある。

 高エネルギー加速器研究機構(仮称)の創設による概算要求要旨は、わが国の加速器科学分野の研究の今後の発展を図り、この分野において世界の指導的地位に立ち続けるために、本学原子核研究所と本学理学部附属中間子科学研究センター、および高エネルギー物理学研究所を廃止・転換し、新たに加速器科学分野における総合的な研究機関を創設するというもの。設置形態は大学共同利用機関とし、機構のもとに二研究所を設置する予定。

 名称は高エネルギー加速器研究機構(仮称)とし、直属の研究施設を置き、素粒子原子核研究所、および物質構造科学研究所を一体的に運営する。

 素粒子原子核研究所は、高エネルギー加速器による素粒子、および原子核の研究、ならびにこれに関する研究を行う。

 物質構造科学研究所は、高エネルギー加速器による物質の構造、および機能の研究、ならびにこれに関する研究を行う。

 また、組織としては二研究所のほか、加速器研究施設、共通研究施設、管理局(技術部を含む)などを配置する予定(名称はすべて仮称)。

 今回の概算要求は、高エネルギー加速器研究機構における増員分の人件費として一億六千七百三十九万八千円のみを計上している。

 二研究所と中間子科学研究センターの予算要求についてはそれぞれ要求しており、統合後に総括されることになる。いずれにしても、この一体的運営は平成九年度予算案が成立し、しかも統合要求が大蔵省で承認されることが前提となる。なお、本学原子核研究所の筑波移転は、三年をめどとしている。

<視点>

薬害エイズを考える(下)

願われる恒久的解決への道

 今月中旬に、元・厚生省生物製剤課長の松下明仁氏が逮捕された。産官学すべてにメスが入り、「薬害エイズ」は事件の究明に向けて最終的な局面を迎えたとも言われる。今後、二千人近い被害を生んだ今回の悲惨な事件を二度と繰り返さないために、私たちはいったいどうすればよいのだろう。また、HIV感染の被害者となった方々はどのようにすれば、本当の意味での事件の「解決」を迎えることができるのだろうか。今回の事件を表層的な究明の次元で曖昧にしないよう、以上の二点についての考察を深めつつ、この連載を終えたい。

責任を負わな い事件当事者

 今月、すでに逮捕されていた元厚生省エイズ研究班長の安部英氏や元ミドリ十字社長の松下簾蔵氏らに引き続き、元厚生省生物製剤課長の松下明仁氏が逮捕された。その中で、事件当時の「不作為」に関する新事実も発覚し、事件の真相究明は大詰めを迎えつつある。

 しかし、報道に聞く事件当事者の発言は、客観的な事実を認めるものではあっても、「事件の責任の一端は私にある」と明言したものではない。むしろ、ごまかしや責任のなすりつけあいの発言に終始しているものが多いとすら言える。

 重大な「殺人」の罪が発生したことは明白であり、誰かがその罪を清算しなければならない。ところが、その罪に問われるはずの事件当事者が、責任逃れの発言を繰り返しているのである。

 この事件の当事者が、自らの「不作為」が引き起こした甚大な被害に対する責任を自覚し得ないとするならば、たとえ彼らが何年かの懲役に服したとしても、被害者の無念は晴れることはないだろう。責任の所在を曖昧にしない、明確な態度が望まれている。

 さらに、この事件の本質とも言える「不作為」は、私たち一人一人にも問われるべき普遍的な問題であるがゆえに、彼らが自分自身の過ちを心から認めたとしても、恒久的な解決とは言えないだろう。前回見たように、彼らの犯した罪が、社会や国家を構成する私たち一人一人の「不作為」を代表したものであるとするなら、私たち一人一人がそれを深く自覚するところまで至らない限り、こういった惨事が二度と繰り返されないという保証はどこにもないからである。

 先日、山之内製薬が、血液製剤の輸入元である米国の会社から、血液の提供者に敗血病の患者がいたとの報告があったとし、一万六千本の製剤を自主回収した。私たち一人一人が、このような自覚ある行動を継続させていくことが、今後何よりも重要になってくるだろう。

「新薬」開発で 具体的謝罪を

 先日の筑波大学の学園祭で、薬害エイズの被害者の一人、川田龍平氏が講演を行った。その講演の最後に、会場から「死の恐怖と向い合っていながら、何を支えにして闘っているのか、行動を起こす勇気の源泉は何だったのか」といった主旨の質問があった。それに対して、同氏は最近のエイズ治療法の発達が、一つの理由として非常に大きいということを述べていた。「エイズ新薬」開発への期待は、まだ生命を失っていない被害者の方たちにとって、大きな心の支えなのである。

 事件当事者が何回謝罪したとしても、それだけでは被害者の心中はおさまらない。単なる言葉ではなく、具体的な謝罪の形が必要だ。彼らが自らの罪を心から悔いて、死に物狂いで罪滅ぼしをするとするならば、「エイズ新薬」開発を行うのが第一だろう。

恨みが恨みを 生む悪循環

 ただ、たとえ「新薬」が開発されたとしても、すでに亡くなってしまった四百人をこえる生命は、もはや帰ってこない。被害者の方々の不遇を、共に痛み、悲しむ心を、私たちは決して絶やすまい。そして、私たちが、第一に念頭に置かなければならないことは、今回、不幸にも被害者となってしまった方々が、どうしたら本当の意味で報われるのだろうか、ということである。

 遺族のある方は言う、「真相究明が一番の供養と思っています」と。そして、無念を晴らすために、国や製薬会社を相手取って、裁判を起こしている遺族の方々が少なくない。そして、「不作為」の温床となった癒着構造を解体し、事件当事者の責任を追及する運動が展開される。市民が呼応して声をあげていくことは非常に重要なことである。

 しかし、ここで私たちはもう少し深く考える必要があるだろう。これで本当に被害者の方々の無念が晴らされるのだろうか、という視点からである。

 こういった運動の展開は、事件当事者に対し、恨みや憎悪の情念をぶつけることに他ならない。しかし、それは、新たな恨みや憎悪を生み出すだけであり、その情念を解消しえないのではないだろうか。

 例えば、今回の事件を通して、マスコミは事件当事者を批判、攻撃してきた。それ自体はやむを得ないことだったかもしれない。しかし、行き過ぎた批判や攻撃は、新たな被害者を生んでいる。すなわち、批判や攻撃の的となった製薬会社の社員らの子供たちは、学校で「いじめ」にあっているというのだ。「罪を犯したものに対しては何をしてもいい」というような考えは、私たちの中で意外に正当化されやすい。しかし、この発想は非常に危険であり、先のような悪循環を繰り返すばかりである。

被害者の無念 を晴らす道

 不条理に苦しむ胸深い憤りや無念の思いに対しては、表すべき言葉もない。たとえ被害者の方々が、事件当事者を恨み、憎んだとしても、私たちが咎めることはできない。むしろ、私たちは、被害者や遺族の方々に、同情と理解を示せるようできる限りの努力をしなければならない。

 しかし、被害者やその遺族の方々が、単に加害者を恨み、憎むだけで残りの人生を生きるとすれば、自らにとっても実に残念なことではないだろうか。どこかで、「恨みがさらなる恨みを生む」というような悪循環を断ち切らなければならない。もしも、被害者の方々が、恨む代わりに忍びに忍んで、安部氏ら事件当事者を許し、哀れむような心を持つことができれば、事件は最善の解決の道をだどると言えないだろうか。

「敵を愛し、迫害するもののために祈れ」。この聖書の言葉は、クリスチャンでなくとも、誰しもが目指すべき最高の境地、人類普遍の最高徳目であろう。

 もちろん、その実践はたやすいことではない。

 まずは、事件当事者が、全面的に「不作為」の責任を認め、心からの悔い改めと、今後二度とこのような悲惨な事件を繰り返さないという決意を表明し、行動に移すことが絶対不可欠である。そして、私たち一人一人が、この「不作為」を私の問題として胸深く自覚することも必要だろう。

 しかし、新たな「被害者」を世に生み出すことなく、恒久的な「和解」の道を見出していくためには、被害者の方たちが、「むしろ、取り返しのつかない惨事の責任を負わねばならない事件当事者こそ不遇かもしれませんね…」と許し、憤まんやるかたない思いを愛敵の精神で完全に克服することが、最終的には願われてくると言えるのではないだろうか。

   ☆    ☆

 戦後最悪といわれる「薬害エイズ」。もはやこれ以上、いかなる悲しみや恨みも増し加えることなく、事件の永劫にわたる解決がなされることを願ってやまない。

 今後、このような悲しい「薬害」を二度と繰り返さない日本社会とすることを、私たちはぜひとも誓いたい。

   

(終)
(S・S、F・Y)

     

六大学野球秋季リーグ

慶大に勝ち点献上

好投も打線の援護なく

 十月五日、六日の両日、神宮球場で東京六大学リーグ戦、東大対慶大の試合が行われた。一回戦、東大先発氏家が慶大打線を3安打に抑える力投を見せたが、味方打線の援護なく惜敗。二回戦はいったん逆転に成功しながらも後半慶大に大量得点を許し、勝ち点を献上した。

◇一回戦(十月五日)

東大
 000000100−1
 01010000×−2
慶大
 勝 林 敗 氏家

 慶大が二回に片岡の適時打で先制。さらに四回一死フルカウントから慶大加藤が氏家の球を右翼席に運び2点目をあげた。

 東大は七回に一点を返し、さらに九回にも無死二塁として一打同点のチャンスを迎えたが、慶大林に後続を断たれた。東大のエース氏家は慶大打線を3安打に抑える力投で完投したが、打線の援護がなかった。

◇二回戦(十月六日)

慶大
 010005003−9
 002000100−3
東大
 勝 林 敗 遠藤

 二−一と東大の一点リードで迎えた六回、慶大は四番高橋由の左越え二塁打で同点とた後、七番北川が中前打、さらに東大の守備の乱れなどもありこの回に一挙5点を追加した。東大はこの回途中、先発遠藤の後を受けて前日完投した氏家が登板したが、慶大打線の勢いを止めることができなかった。

生研公開講座始まる

藤森教授が「風水」語る

 本学生産技術研究所が主催する第十五回生研公開講座(イブニングセミナー)が、十月十一日、始まった。これは、春と秋に、あるテーマを中心に、同研究所の先生方がオムニバス形式で講演を行うもの。

 今回のテーマは「都市の形とダイナミックス」。人々の営みや社会の構造の変化を敏感に反映してさまざまに形を変える都市。情報のネットワークの飛躍的な拡大や交通のインテリジェント化から、大規模な地震などに対する安全性の一層向上、環境問題への対応など、都市を変革しようとする力はこれからもますます大きくなる。その一方、都市は変化を積み重ねてきたストックとしての顔、歴史を育んできた顔をもっている。都市の形やダイナミックスを構成するさまざまな要素、情報、環境、安全、水、歴史などを切り口に、九回にわたって行われる。

 第一回目の十一日は、「風水の正体」と題して藤森照信教授が講演。中国大陸における「風水」や「方位」に関することを取り上げながら、中国の都市の建設を紹介した。「山から気の流れがあり、山を伝わっていく」、「気のたまるところに都市つくった」と説明。この考えが、韓国や日本にも伝わってきたという。そして、それは墓相や家相に名残りがあるという。

 今後の予定は、以下の通り。

 10月18日「都市の北風と太陽」 加藤信介・助教授
 10月25日「都市と水環境」    虫明巧臣・教授
 11月1日「都市のモビリティ」 桑原雅夫・助教授
 11月8日「都市の補強」    大井謙一・助教授
 11月15日「都市の足元」    古関潤一・助教授
 11月22日「都市と意識」    曲渕英邦・助教授
 12月6日「都市の安全」    目黒公郎・助教授
 12月13日「都市と情報」     村井俊治・教授

 なお、参加費は無料で、いずれも午後六時から始まる。

コラム・淡青手帳

 最近、渋谷の町を歩くと、やたらとティッシュ配りを目にする。そのほとんどがテレクラ関係。配る側も人を選んでいるようで、ティッシュがほしくても、もらえないこともしばしばだ▼こんなことをして、どれだけ効果があるのだろうか、と疑問に思っていたところ、先日驚くべきデータが発表された。東京都がまとめた「青少年の生活意識調査」だ。それによると、なんと都内の女子高生の三人に一人、女子中学生でも四人に一人がテレクラの利用経験があるというのだ▼今の中高生も、私たちと共に、十数年後には日本社会の中核となる。中には、政治家や教育者になる者も現われるだろう。そのとき、政治家や実業家達は異性問題で腐敗し、教育者も性倫理を正しく教えることができないとすれば、日本の社会は大変なことになってしまう。さらに、最も深刻なのが家庭だ。若い頃愛と性を弄んでいた親達が、どうしてその子供達に愛と性の尊さを訴えることができるのか▼データによると、「援助交際」すなわち売春にまで至ったケースでは、その動機のほとんどがお金ほしさからであった。本来愛と性は人間の命以上に尊いもののはずである。なぜなら愛と性は、それがあって初めて新しき命の誕生がなされる、命の種とも言えるものだからだ。ならば人の命がお金では取り替えることができないように、その命の原因である愛と性はそれ以上の価値があるはずではないか。それを、お金によっていとも簡単に踏みにじることができるということは、極めて異常な精神構造であると言わざるを得ない。そのような精神構造が今、確実に日本の未来を侵略しようとしている。今後、私たちが防波堤になっていかなければならないだろう。

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