東大生の選んだ一九九六年の十大ニュースは何か?――この一年を振返って一番心に残る出来事を、東大生百人(教養学部の学生約七割・本郷の学生約三割)を対象としてアンケート調査をしてみた。調査は、十二月七日から二十日にかけて、電子メールと聞き取り調査によって行った。トップは、「O−157食中毒発生」(二十八人)、第二位は、「東大に合格」(二十六人)、第三位は、「アトランタオリンピック開催」(十二人)、以下「消費税五%を閣議決定」、「北海道豊浜トンネルで岩盤崩落」、「伊達公子引退」(以上十一人)「日本シリーズでオリックス優勝」、「寅さん死去」(以上十人)「進学先が決まった」(九人)、「初の小選挙区比例代表並立制での総選挙実施」、「沖縄の少女暴行事件判決」(以上八人)が今年の十大ニュースとなった。
・世界
アトランタオリンピック開催 12
サッカーW杯大会、日韓共同開催決定 7
仏、核実験の終了を発表 4
国連安保理の非常任理事国に日本が選出 2
台湾で初の総統直接選挙 李登輝就任 2
クリントン米大統領再選
エリツィン露大統領再選
国連ガリ事務総長 任期1期で交替
今年の世界ニュースのトップは何と言っても、「アトランタオリンピック」だった。近代五輪の百周年を飾る大会であると同時に、国際オリンピック委員会(IOC)に加盟する百九十七の国と地域が全て参加した完全五輪でもあった。たくさんの人が、夜遅くまでテレビを見ていたことであろう。
日本選手団の成績は金メダル三個、銀メダル六個、銅メダル五個の計十四個。戦後では、一九五二年のヘルシンキ大会の計九個に次ぐ悪い成績だった。その中でも、サッカーで日本がブラジルに勝ったことなど、大きな喜びをもたらしてくれたシーンも数多くあった。
二〇〇二年には、サッカーW杯大会が日韓共同で開催されることが決定した。日韓の歴史感情は、まだまだわだかまりを残しているが、こうしたスポーツ交流をきっかけとして、さらに二国間の幅広い交流が進むことを期待してやまない。
また、フランスが核実験を終了したことは、時代がもはや戦争の時代を過ぎつつあることを感じさせる。昏迷の世界情勢の中で彷徨する人類だが、二十一世紀を人類の輝ける世紀として築く責任が私達の世代にはあるだろう。
・政治・経済
消費税5%を閣議決定 11
初の小選挙区比例代表並立制 での総選挙実施 8
薬害エイズ、国の責任認め厚相が謝罪 5
薬害エイズ、逮捕者続出 5
厚生事務次官逮捕5 第二次橋本内閣発足 2
警視総監辞任
衆議院選挙で自民党が勝ち、少数ながら単独内閣を作った
東大OBが多く逮捕された
日本の政治・経済は今年も昏迷を極めた。消費税が五%に上がることが決定したのは予想していたこととはいえ、今年のトップニュースとなった。また初の小選挙区比例代表並立制での総選挙が行われた年でもあった。しかし、選挙は「しらけムード」が漂い、投票率は過去最低の五九・六五%にとどまった。
選挙では、自民党が二百三十九議席を獲得して第一党を確保。しかし、過半数にはわずかに届かなかった。これにより十一月七日、橋本龍太郎が総理大臣に指名され、行政改革を最大の課題に掲げて三年ぶりの自民党単独による第二次橋本内閣が発足した。
最近のあいつぐ官僚の汚職事件の発覚や、大きく拡大してしまった薬害エイズ問題は国民の政治への不信を募らせる。だが、政治家の問題は結局、国民一人一人の問題としてとらえ、改善していく姿勢がないと、いつまでも真の民主主義が実現されることはないと思われる。
特に、国家の重大な責任を背負っている人物には本学の出身者が多いことを思うと、私たち今の学生が豊かな人格性を身につけ、世界に貢献することのできる日本を作り上げていかなければならないだろう。
・社会・芸能
O-157による食中毒発生 28
北海道豊浜トンネルで 岩盤崩落 11
渥美、寅さん死去 10
沖縄の少女暴行事件判決 8
羽生善治が史上初の七冠達成 3
「沖縄代理署名訴訟」で 最高裁が沖縄の訴え退ける 2
オウムの指名手配者、 次々に捕まる 2
麻原被告初公判 2
遠藤周作氏死去
藤子・F・不二雄氏死去
新宿ホームレス問題
土石流災害
藤岡教授(教育学部)の歴史教科書改善運動
産経新聞が従軍慰安婦を否定する記事を掲載したこと
今年の夏は、日本の隅々までO−157禍に見舞われた。この食べ物は大丈夫だろうか、と誰もが真剣に心配せざるを得なかった食中毒事件。十一月末までに患者総数は九千人以上、死者は十一人となっている。結局、はっきりとした原因が特定されたわけではなく、あちらこちらで降って湧いたように発生した。
また、二月十日、北海道・小平町で起きた豊浜トンネルでの岩盤崩落事故は、巨大な岩石を前に、なすすべもなくたたずむしかない人間の姿を浮き彫りにした。直前のバス停で下りて助かった人、乗って亡くなった人。人間の生死は、いつやってくるのか誰にも分からない。
また、日本人なら誰でも知っている映画俳優、「寅さん」こと渥美清さんが亡くなったのも記憶に新しい。そして、顔入りのポスターが日本中に貼られたオウム事件の指名手配者たちも、疲れたようにして次々と捕まった。
・国内スポーツ
伊達公子引退 11
日本シリーズで オリックス優勝 10
伊達公子ウインブルドン選手権 日本女子初ベスト4進出 5
日本がブラジルに勝ったこと 3
有森裕子銅メダル
Jリーグで鹿島アントラーズ優勝
中日が巨人に負けたこと
阪神最下位
貴花田4連覇
トップは、プロテニスの伊達公子の引退。ウィンブルドン選手権準々決勝でピエルス(仏)を破って日本初のベスト四に進出した。伊達のシングルスでの通算成績は、二三五勝九八敗、最高ランキングは昨年末の四位だった。世界のトップに立てる可能性があった彼女だけに、その引退は惜しまれるところだ。
プロ野球の日本シリーズ第五戦が十月二十四日、グリーンスタジアム神戸で行われ、オリックスが逆転で巨人を破り、対戦成績四勝一敗で初の日本一を決めた。この優勝は、まだ仮設住宅で三万世帯が生活する神戸の市民にとって、大きな希望となったことは間違いない。
・学内・個人
東大に合格 26
進学先が決まった 9
駒場寮廃寮 6
彼氏・彼女にふられる 5
医学部入試に 面接試験導入を決定 3
彼氏・彼女ができた 2
弟が大学に受かったこと
友達が刑務所に入ったこと
バーチャ3(ゲーム)が出たこと
サークルのマネージャーになる
TIAF(ESSの英語劇)が成功した
プレイステーションを 購入したこと
トップは、圧倒的に「東大に合格したこと」。長い受験生時代を過ぎて、ようやく手にしたこの栄冠は、何にも代え難い喜びであろう。特に浪人して合格した人には、本当にご苦労様と言いたい。
だが、東大の理T、理U、文Vに入学した人には、第二の関門が待ち構えている。それが進学振り分け、略して「進振り」だ。自分の行きたいところに行けた人も行けなかった人も、一生懸命に専門課程の勉強をしていきたいものだ。
四月一日には、駒場寮が正式に廃寮された。だが、依然として寮内には学生が居残り、生活を続けている状態。長年話し合いの姿勢で対してきた学部側も、そろそろ法的な手段に訴える構えを見せている。
その他、彼氏・彼女ができた、別れたということから、ゲームソフトを買ったなど、多くのニュースが寄せられたが、それをいちいち紙面に書き付けるならば、世界もその書かれたニュースを収め切れない。
<終>