東大教官に、97年の関心事を聞く
「注目される行政改革」

◎澤田嗣郎教授 (工学部・応用化学)

学歴偏重社会への見直し  東大医入試面接に端を発し、画一的な物の見方しかできない人間を排除し、真に創造的な発想のできる人間を大学に多く入学させるシステムと構築。

柏問題、大学改革に関連して  細分化されて身動きのとれなくなった学術、学問分野を見直し、流動性に満ちた、活気ある学際的な大学改革を望みたい。

世界に於ける日本の立場  世界に対し、真に責任ある発言のできない日本をなさけなく思い、教育にも責任の一端があるのでは、と痛感させられる。

◎曽根悟教授(工学系研究科・電気工学)

学生の工学への関心  工学に関する若年層の積極的な関心が薄れつつある現象が、表面的にはいわゆるバブルの崩壊で一時的には止まったに見えたが、実はそうではないようで、工学の魅力と必要性を駒場生等に積極的にアピールしつつ、その行方を見守りたい。

リニアモータカーの走行実験  四月から山梨で始まる、超高速浮上式鉄道の実用を目指した本格的な走行実験の成果と、それによる社会の反応、特にエネルギー、環境、安全を考えた日本の交通の将来展望の中での反応に注目。

日本の将来  十分な社会的蓄積がないままに、急速に凋落に向かうという、データやシミュレーションに基づいた近未来予測と、これまでもそうであったように、困難にうまく対応するという期待があるが、果たしてどうすればよいか。身近な問題では、柏のあり方とも関連。

◎小林洋司(農学生命科学研究科・森林科学、森林利用学)

ペルーの日本大使館公邸人質事件の解決 日本の危機管理の方向を占うことと、海外援助についての反省、フジモリ大統領の処理の仕方と今後の日本との関係等に関連して。

行政改革のゆくえ  官僚の汚職の処理と大蔵省の解体、そのゆくえ、現政権に余り期待はしてないけれども。

松井、清原の活躍と巨人の優勝の可能性  長嶋巨人は今年優勝できるか。

◎小谷俊介教授(工学系研究科・建築学、建築構造学)

構造物の耐震化  一九九五年兵庫県南部地震では一九八一年以前に建設された鉄筋コンクリート造建物、鉄筋造建物および老朽化した木造家屋が崩壊した。このような古い建物の耐震診断および耐震補強による耐震化が急がれる。

建築設計基準の国際化  外圧による国際化の要求が各方面に出ているが、国際化要求に対応すると共に、日本独自の耐震安全性の確保をはかる必要がある。国際的な場での日本の立場を主張できる国際的な人間が望まれる。

大学の改革  大学の形式的な改革が求められているのではない。東京大学では教育者としての自覚が求められている。学生の優秀さに甘えた馴れ合いの教育ではなく、その優秀さを最大限に引き出す厳しい教育が求められている。

◎藤岡信勝(教育学研究科・学校教育開発学コース)

従軍慰安婦をはじめとした教科書問題 この問題は二十一世紀に日本が国家として生き残れるかどうかという問題と根源的に関わっている

日本の危機管理  朝鮮半島情勢とのかかわりで、対応に失敗すれば重大な結果を招くだろう。

香港の中国返還  二十一世紀は中国が、アジアの安全保障問題でも、地球環境問題でも焦点の一つになるだろう。それを占う意味がある。

◎芳賀達也教授(医学部・脳研究施設生化学部門)

科学研究費  基礎科学研究費の大幅な増額が報告されている。研究者にとっては嬉しいニュースである。しかし分配の仕方が気になる。悪平等に代わりに極端な貧富の差が出始めている。正解は中間にあるのだろうが、それを誰がどう決めるのか。それが問題である。分配方式と審査方式の抜本的な再検討に時期ではなかろうか。

科学評論家と科学行政家  良質な科学評論家と科学行政家が出てほしい。科学者の余技や引退後の仕事ではなく、本職の評論家や行政家が。優秀な研究者が必ずしも良質な科学評論家や行政家ではない。小説家と評論家あるいは野球の名選手と名監督の関係であろう。科学評論家が活躍する場も必要である。日本の科学行政のニュースをNatureから知るとは情けない。

脳研究  二十一世紀を脳の世紀として、その研究を推し進めようと言う機運が盛り上がっている。脳の研究は医学・生物学的研究にとどまらず、心理学、行動科学、工学などに関連している。柏に新しいキャンパスを建設しようとしている現在、広く長期的な視野に立って、学部を横断して研究所を構想する絶好の機会に思える。

◎大久保誠介教授(工学系研究科・システム工学)

メタルショック  オイルショックより大きな影響を与える可能性があります。何らかの準備をしておく必要があると考えています。

財政の逼迫  急速に困窮の度合いを増しつつあると感じております。

トンネル掘進機の発展  システムとしてまとまってきたと思います。トンネル掘進機をうまく使用すれば、従来工法に比べトンネルの掘進速度が格段に増します。注意深く、動向を見守りたいと思っております。

◎土田龍太郎教授(文学部・印度哲学)

皇室問題外国人問題国語、国字問題

◎矢川元基教授(工学系研究科・システム量子工学)

行革、規制緩和、情報公開などと大学 日本全体が大きな変革の嵐の中に揺らいでいる。大学だけが取り残されることのないようにしなければならない。

科学技術基本法、基本計画 新しい法律のもとに、抜本的な大学の研究環境の改善を期待したい。特に研究教育の物理的な空間不足の解消が最優先事項である。

柏新キャンパスと本郷学部・大学院再編 大きなシャッフリングによって新しい学問体系の確立を早々に目指すべきである。


淡青手帳

 お正月番組「竜馬がゆく」(司馬遼太郎原作)を見た。改めて坂本竜馬の生きざまに共感した。幕末、藩と藩が争っている時代に藩という枠を越えて新しい平和な日本を作ろうとした発想。身分制度が厳しかった時代にもかかわらず、身分の差別もなく、給料も皆同じだったという「海援隊」に見られる自由平等の精神。

また、彼はアメリカの民主主義にもいち早く関心をもち、武士だけでなく誰もが政治に参加できる社会の仕組みを考えていた。いわゆる「船中八策」の中に憲法作成、議会の開設、農民や町民の政治参加などが入っていた。当時の封建的なしきたりに囚われない進取の気性を持っていたと言える。何をとってみても当時の人の発想や思考のレベルを遥かに超えている

とりわけても長州の桂小五郎と薩摩の西郷隆盛の間を取り持ち、日本の命運を賭けて薩長同盟を結ばせたところは感動的であった。「日本が好きじゃきに(好きだから)」という熱い心情の動機から「子供のケンカ」はやめよ、と薩長を和解させた竜馬。

さらに驚くのは彼のスケールの大きさだ。倒幕後の新政府の閣僚の構想の中に自分の名前を入れず、海援隊として自由に世界に出ることを描いていたからだ。そこには自己中心的な野望や権力志向など微塵もない

竜馬がもう少し長く生きていれば日本はもっと良くなっていただろう。竜馬が首相になって異論のある者はいまい。

東大生は好むと好まざるとに関わらず、日本の発展や繁栄に対して責任と使命を負っていると思う。特に文Tの学友たちには竜馬のような真の愛国心と自由平等の精神を持った政治家や官僚になってくれることを期待する。


東大新報 1997.1.15号