アメリカの流行り文句がかつてのジャパン・バッシングから最近はジャパン・パッシングになっているという。つまり「日本外し」である。その背景にあるのが、日本以外のパートナーの出現で、それが中国と東アジア。ことに対アジア戦略の相方として、日本よりも中国に軸足を移していくのではないかという懸念が、日本の政府関係者には根深い。中国をめぐる日米の確執は太平洋戦争に主原因で、まさに地政学的な問題でもある。
商社マンである著者の現場感覚も軌を一にしており、日本はむしろ海洋性と非華人性のベクトルを強めてASEANに接近し、中国に対抗する経済圏を目指すべきだとしている。それは隋の煬帝に、対等の関係から国書を送った聖徳太子の構想と変わらない。覇権国家である中国に対する、架け橋国家日本の難しさは今も同じなのである。
そのための具体策として、著者はESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)とアジア開発銀行(ADB)の活用が得策であるとし、ADBに設置されている日本特別基金(JSF)を現在の五億ドルから千億ドルに拡大し、いわばアジア版マーシャル・プランの実施を提案している。戦後のアメリカによる欧州復興計画のアジア版で、冷戦後のアジアにおいて日本が構想力を発揮できる唯一の道であろう。
急速に経済力を高めてきている東アジア諸国で起こっている問題は、マレーシアが国産車の技術提携先を三菱からシトロエンに乗り換えたり、インドネシアが韓国の起亜と組んでの国産車製造など、技術移転に熱心でない日本外しである。そうした背景には、日本の国家イメージの不明確さがある。歴史的に、日本は架け橋国家と覇権国家の間を往復しており、大東亜共栄圏の時代は瞬間的に日本が覇権国家になっていた。オーストラリアやシンガポールなど架け橋国家のライバルと競争することで、日本はその国家イメージを発信すべきだという主張には説得力がある。(T)
日本の宗教人口は人口の二倍くらいいるのに、いざ「あなたの宗教は」と聞かれると「無宗教」と答える人が大半。この当たり前のようで、なぜだか分からない日本人と宗教の関わりを、小さな本ながら的確に分析している。
「宗教」という言葉は、明治になってから生まれた翻訳語である。その大きなきっかけになったのはキリシタンの取り扱いであった。維新政府は徳川幕府を否定しながらも、唯一キリシタン禁制だけは引き継いでいた。それはキリシタンが天皇の神聖を犯すことを恐れたからである。
尊皇攘夷のエネルギーで幕府を倒した明治の元勲たちは、大急ぎで日本を近代国家にするには、国民の間にある漠然とした天皇への崇拝心を利用するしかないと考えた。仏教も儒教も国家の精神としては古臭すぎたし、かといって過半の国民をキリスト教に改宗させることもできない。
そして、天皇を神聖化する様々な儀式が制度化されるのであるが、それらを宗教とすると国際的な「宗教の自由」に反することになる。そこで、神道に立脚した儀式は日本の慣習であり宗教ではないとし、そこから狭く「宗教」を定義したのである。つまり、自然崇拝や先祖供養などのいわゆる「自然宗教」は宗教ではなく、教祖や教義、組織がしっかりしているものを宗教と規定した。それは、福沢諭吉など当時の知識人の宗教観とも一致しており、面白いことに「無宗教」という用語も、既に使われはじめている。
歴史的に見ると、アニミズムから発展した日本の宗教は鎌倉時代に頂点に達したが、江戸時代にはその世俗化が進んだ。明治の知識人の宗教観は、その延長線上にある。著者は、生の意味を深める宗教の本質的な営みを未だに「無宗教」の一言で片づける知識人の多いことが、「日本人の精神生活を痩せ細らせている」と警告する。(T)
ここは、けがをしたり、体の具合が悪くなったときに訪ねる場所だ。いつでも、親切に応対してくれるので重宝している人も多いだろう。
ホームページは、業務内容をはじめ、医療情報、担当医師一覧、お知らせなど多くの情報が載せられている。
面白い内容を探してみると、やはりあった。まず外来受診者の推移のグラフ。平成元年度は一年間の受診者が五千七十九人だったが、毎年漸増し、平成七年度には一万三百六十九人とほぼ倍に膨れ上がっている。なぜこんなに増えたのだろうか。非常に興味深い。
医療情報では、破傷風の予防、O157について、高血圧症についてなどが載っている。学生に関連が深い内容は、飲酒事故を防ぐためにという内容だ。お酒の飲める人、飲めない人がいるという話から、お酒には致死量があるという話、イッキ飲みは絶対に断りましょうなどの話が載っている。お酒について知りたい人は、このホームページを読むといいだろう。
もう一つ、それでもタバコを吸いますか?というコーナーも興味深い。現代日本の喫煙率は、男性で五七・五%、女性で一四・二%。本学では、二年次で男子一三・三%、女子一・〇%であるという。
またタバコは健康に有害であり、呼吸器疾患、循環器疾患、消化器疾患や女性への影響など具体例を挙げて、その害を説明している。タバコが喫煙者以外の周囲の人々に悪影響を及ぼすことが判明したため、公共の場所を禁煙とする動きは、今や世界中に広まっていることが書かれている。
極めつけなのが、禁煙に向けて頑張りましょうというコーナーだ。具体的かつ詳細に、方法が載っている。ニコチン依存症を抜け出さなければならないそうだ。
東大新報