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目指すべき大学理念の原点 ―南原・矢内原の思想と精神―

前橋 格


 
私は、新制大学の使命、大学人の目指すべき理想像の原点を、南原氏、矢内原氏の理念や思想に求める。

大学は、真理探究・学問研究の府及び教育の場であり、日本国家と世界人類に寄与・貢献する使命を持つ。

そしてより大きいことの為に生きる≠ニいう思想こそが、人間個人の成長、家庭・社会の調和と発展、そして、国家・世界の平和と繁栄をもたらすものである。

この思想は、大学自体を発展させようとするものではない。

大学が国家と世界人類のために奉仕しなければならないのである。

その聖なる使命を自覚するものこそが、真の大学人ではないだろうか。


学問の目的は何かといえば、やはり、それは人類の幸福であろう。

幸福とは何であるか。

正義、自由、平和など、さまざまに幸福の内容は規定されうるが、ここではまとめて「善」と呼ぶとすると、人類の幸福は「善」にある、即ち、道徳的である。

学問即ち真理の探究は、善を目的とする時においてのみ人類の幸福と合致する。

学問にはこの道徳性があるのである。

そして、その道徳性は学者自身の問題である。

学問に携わる者は、深い学問的精神を養うと共に、善に対する熱心さをもたなければならないのであろう。


では、そのためにはどうすればよいのか。

矢内原氏は、「学問的精神を何によって養うか」を次のように述べている。
 

 実に、南原氏、矢内原氏は二人とも、内村鑑三先生を尊敬していたのであり、学問・思想面において大きな影響を受けている。 

この内村氏の墓には彼自身の筆による墓碑銘が刻まれているが、このわずか四行の中に彼の信念・信条ともいうべきものが実に見事に含まれているのである。

「我は日本のため
日本は世界のため
世界はキリストのため
而してすべては神のため」

ここにおける「キリスト」とか「神」とかという言葉を、「平和」とか「真理」とかに置き換えることも可能だろう。

自分は、自己の利欲のために生涯を用いず、日本のために生涯を捧げる。

日本は自国の利益のみに生きずして、世界の平和のために生きる。

世界は、一時的な満足や戦争に生きずして、全人類の恒久平和のために生きる。


そこにおいて初めて、万人が幸福に暮らせ、万国が共生共栄できる「神の国」を実現することができるのあろう。

大学人は、たとえそれがどんなに苦難の道であったとしても、“より大きいことの為に生きる”という信念に徹して生きるべきであろう。

理想は高く有し、真理を愛する高貴な精神を以て、新しい日本文化の創造と世界の恒久平和のために生きる――それこそが、最も名誉ある生き方である、と私は結論する。
 


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