東大生の教育に関する意識調査

―― 一二年生から教育問題への提言 ――

 
 今回の教育特集の一環として、1・2年生を対象に「教育に関する意識調査」を行った。方法は電子メールによるもので、形式はアンケート形式をとった。最近の青少年犯罪増加の影響か、教育の問題に関心を持っている学生は多く、たくさんの返答が返ってきた。ここでは、その中でも代表的な意見や、示唆に富んだ意見などを抽出して掲載する。
アンケートで行った質問
  1. 教育の問題に関心がありますか?
  2. 自分が今まで受けた教育に満足していますか?またその理由は何ですか?
  3. 子どもたちが「キレる」原因は何だと思いますか?
  4. 高校や中学での持ち物検査は必要だと思いますか?またその理由は何ですか?
  5. 近年、青少年による犯罪が急増していますが、その主な原因は教育にあると思いますか?
  6. 家庭は教育においてどのような役割を果たすべきだと思いますか?
  7. 現代の日本の教育システムに欠陥があると思いますか?
  8. これからの教育はどうあるべきだと思いますか?
  9. その他教育に関して思うことを教えて下さい。(特に「こころの教育」について)


1.教育の問題に関心がありますか?

6割以上が「関心ある」

 この問に対しては、さすがに「関心ある」と答えた学生が多かった。教育に関心のある学生は全体の6割以上に達した。


2.自分が今まで受けた教育に満足していますか?またその理由は何ですか?

「満足」は4人に1人

 満足度の比率はグラフのようであった。
 それぞれの理由のうち、代表的なものだけ挙げてみると、
◆「満足」
・最近特に、自分の受けてきた教育が人と(特に海外の人々と)コミュニケーションをしようとする際に役立つことが多くなったということを契機に、自分の受けてきた教育の意義を感じられるようになったから (文一 2年 男)
・良い先生に何度かめぐりあえたから(文一 2年 女)
◆「どちらともいえない」
・実生活ではあまり役に立っていない気がするが、今までの教育が全く必要ないものばかりであったとはいいきれないから(文三 2年 女)
・大学教育において、あまりに教官と生徒の意志の疎通がない(理一 2年 男)
・興味を持たないものにまで学ばねばならないことが多すぎるため(文二 2年 男)
・受験対策のような授業であったため(理二 2年 男)
・中学、高校と今思えばすばらしい教師がたくさんいたが、自分は利用し切れなかった(文三 1年 男)
◆「不満」
・今の自分に生きていることがあまりないから(理一 2年 男)
・生きてゆくのに役立たない知識ばかり詰め込もうとさせられたようだから(理二 2年 男)
 今の自分に生きているか、または良い教師と出会えたかが満足度を左右していることがわかる。 


3.子どもたちが「キレる」原因は何だと思いますか?

ストレスの蓄積が原因

 やはり多かった意見は「ストレス」「欲求不満」だった。
・激しい学力競争でストレスがたまること(文一 2年 男)
・ストレス。愛情の不足(文三 2年 女)
・欲求不満。最近は公園で遊んでいる子供より、室内でテレビゲームをやっている子供の方が多い。その結果、知らず知らずのうちに欲求不満がたまっていき、ささいなことでも暴力に訴えるようになってしまうのだと思う(文二 1年 男)
 また、次の意見に代表されるように、しつけの中で我慢することを教えていないからだという意見も多かった。
・しつけの中に、我慢させるという事が欠落していること。子供を追い詰めてしまうこと(理二 2年 男)
・最近の子どもたちは、自分の社会的立場がわかっていないためだと思う。自分の納得のいかない結果になると「キレる」のだから、自己中心的に考えてるだけだと思う。もっと忍耐力が必要だと思う。それに、やってはいけないことの境界がわかってないためだと思う (理二 2年 男)
 中には次のような考えさせられる意見もあった。
・小さい頃の情操教育がなっていないから。だいたい、ろくなしつけをされていない親が、自分の子を正しくしつけられるはずがない。今の子供たちが親になったときは更にすさまじい子供たちが台頭することだろう (理一 2年 男)


4.高校や中学での持ち物検査は必要だと思いますか?また、その理由は何ですか?

プライバシー尊重すべき

 「持ち物検査は必要ではない」と答えた学生が圧倒的多数を占めた。その理由のうち最も多かったのは、「プライバシーの尊重」というものだった。以下代表的なものを挙げれば、
・不必要なのではなく、してはいけないと思う。プライバシーの問題で(文三 2年 女)
・プライバシーは秩序より大切であるから(文一 2年 女)
・されたほうはいい気がしないし、そんなことをしても、校外での犯罪が増えそうだから(文三 2年 女)
・さらに反発意識を刺激して、逆効果だから(文二 1年 男)
・生徒を信じるべき(理二 2年 男)
 一方、「持ち物検査は必要」と答えた学生が掲げた理由では、「生徒の安全のためには止むを得ない」という意見が多かった。その他次のような意見もあった。
・生徒を甘やかすべきではない(文三 2年 男)
・学校教育は、子供を道徳的に成長させる場であり、ナイフなどの危ない物を持っていて、それを使われて他の生徒に怪我をさせてしまっては、それこそ道徳的によろしくないことだと思うから(理二 2年 男) 


5.近年、青少年による犯罪が急増していますが、その主な原因は教育にあると思いますか?

家庭教育に責任あり

 これらの質問に対しては、「教育に原因がある」と答えた学生が全体の八割を占めた。中でも家庭での教育、親の教育に問題があると答えた学生が多かった。
 一方「他に原因がある」と答えた学生はその原因として次のようなものを挙げた。
・生活水準の上昇による欲求の行き詰まりと、漫画の行き過ぎた描写(文二 1年 男)
・マスコミによる悪影響  (文三 2年 男)


6.家庭は教育においてどのような役割を果たすべきだと思いますか?

最低限のしつけすべき

 この問に対しては「しつけをすべき」という意見が多かった。それも「人としての基礎を教える」ことが家庭の役割だという意見が目立った。
・命の大切さや最低限のしつけを子に身につけさせる (文一 2年 男)
・基本的なこと全部(善悪の判断など)(文三 2年 女)
・人としてもつべき思い遣りや常識を教える役割(理二 2年 男)
・人としての、基礎の基礎をまなぶところ。それを棚に上げて、やれ学校教育だ、やれ友達関係だ、と語るのはナンセンスだと思う(理一 2年 男)
・ほぼ全て。学校にできることなどごく僅かである  (文一 2年 男)
・最低限のしつけをたたきこむ。食事のマナーとかそういう細かいことを馬鹿にせず、しっかりと教えてやる。大人の扱いをし、そういうことの積み重ねで、人の痛みを分かれるようにさせてあげなきゃ(理一 1年 男)


7.現代の日本の教育システムに欠陥があると思いますか?あるとしたらそれは何ですか?

画一的教育が問題

 この問に関してはほとんどの学生が「ある」と答え、鋭い意見が多く寄せられた。次に代表的なものを挙げてみる。
・偏差値を重視した教育方法(文三 1年 女)
・子供たちをもっと褒めるようにしなければならない。今の教育では各自が自信を持つことが非常に困難である(文一 2年 男)
・やってはいけないことを生徒に教えるようなシステムが欠如していると思う  (理2年 男)
・生徒を平等に扱おうとするあまり、画一的な教育を施している(文一 2年 男)
・戦後、宗教教育などの価値観教育を排除し、ただ知識のみを教えようとしたこと(文三 2年 男)
・(小)・中・高であまりにも勉強に縛りつけすぎで、大学で堕落する傾向にあることと、大学にはいることだけに意味があって、中卒や高卒にほとんど成功のチャンスのない学歴社会(理一 2年 男)


8.これからの教育はどうあるべきだと思いますか?

人間性評価する社会を

・子供に自由に、自発的に、物事にとりくませる(文三 2年 女)
・少人数で、一人一人にあった教育を目指すことだと思います(理二 ?年 ?)
・子どものこころとからだを鍛え直すことが必要(理二 2年 男)
・学校と協力しつつ親が子供とともに学び、積極的に教育していく(理二 1年 男)
・教師が「平等」と「画一」とは違うものだと認識し、画一的な教育を改める(文一
2年 男)
・欧米のように、高校までは勉強に縛りつけずにボランティア活動など人間性を評価し、勉強したい人だけがそのために大学に入り、環境の整った中で教授の「分かる講義」で本格的に勉強し、社会が大学に「入る」ことでなく、「出る」ことを評価し、かといって大学を出なくても何も恥じることなく皆平等に夢をつかむチャンスがあることを国民が認めている社会(理一 2年 男) 


9.その他教育に関して思うことを教えて下さい。(特に「こころの教育」について)

心の教育は家庭で

・最近、教育を学校まかせにしすぎる傾向があると思う。教育の基本は家庭にあるべきだと思う(文三 2年 女)
・一つの学校に、最低一人は、心理学や、精神分析学を極めた人をおくべきだと思います。むしろ、保健の先生より大事かもしれませんよ(理一 2年 男)
・教育を施す側の力量の問題が最大の課題と思われる。また、教育を考える者の力量(価値観の柔軟性というか、「遊び」というか)も問われると思う(理一 2年 男)
・もっと教師は生徒とはなす時間を増やすべき(理一 2年 男)
・心の教育は家庭と自己でおこなうべきである(文 1年 男)
・個人的な経験からは、「倫理」という科目の勉強が非常に面白く、凄く自分のためにもなったと思う。また、教員資格を一層厳しくする必要がある。広範囲な教養、それなりの人格(測るのが難しいが)、教授法の巧みさなどを要求する必要があろう。法職並の格が与えられていいのではないか。また、そのためには今の文部省の、例えば教育委員会、といったシステムから、見直していく必要がある(文三 1年 男)
・「こころの教育」といってもどう実行するのかということになると難しいが、他人を傷つけないとか、物を大切にするなど、誰もが共有する道徳に限れば教え込む必要があると思う(文 1年 男)
・「こころの教育」は一人の教師が何か生徒たちに話す、という形ではおそらく成立し得ないであろうと思う。壮大なテーマなのですぐには意見をまとめられないが、とにかく他人を尊重することを自然に学べるような教育が実現することを望みたい(文一 2年 男)