有馬元総長が文相に

初当選から異例の抜てき

心の教育充実目指す

 先の参院選で初当選を果たした有馬朗人・本学元総長が、臨時国会の召集された7月30日、異例の抜擢を受け文部大臣に就任した。有馬氏は参院選比例区で、自民党の名簿第1位で出馬して当選。初登院の日にいきなり文相への起用となった。政治力は未知の有馬氏だが、本学総長、中央教育審議会会長を歴任し、文教行政との関わりは深く、今後の手腕が期待される。

 最高学府の頂点から文部行政のトップへ。新参院議員として初登院した日に、いきなり文相への起用が決まった有馬氏は、「自分の言ってきたことを実行できるかどうか。これから勉強します」と抱負を語った。
 有馬氏は原子核物理学の権威で、75年から本学理学部教授、89年から93年まで本学の総長を務めた。総長時代には、三鷹国際学生宿舎を造るなど、開かれた大学作りに努めた。総長退任後は中央教育審議会会長の大役を任され、飛び入学制度の導入、公立校の中高一貫教育の導入などを提案した。取りまとめの能力が高く、政府の行政改革会議などの委員も歴任。昨年6月には、NHKと日本民間放送連盟が設置した「放送と人権等権利に関する委員会」の初代委員長にも抜擢された。
 俳人としても知られ、学生時代、工学部教授の山口青頓氏に師事。88年、第三句集『天為』で俳人協会賞を受賞。国際俳句交流協会会長も務めている。
 有馬氏起用の背景には、先の参院選での自民党の大敗がある。小渕首相や野中官房長官は、当初から有馬氏の入閣を検討しており、法相に充てる考えだった。しかし、参院枠(閣僚三ポスト)で登用しようとしたため、参院自民党が難色を示し、いったん暗礁に乗り上げた。
 ところが、小渕首相が「総裁枠」を活用するつもりだった町村前文相の再任が、「他の閣僚や入閣候補から不公平だと反発を招きかねない」との情勢から困難となり、文相ポストが空いたため、改めて「総裁枠」を使って有馬氏を入閣させることが可能になり、大抜擢が実現した。
 本学の総長で文部大臣を務めた人物には、第3代・8代と二度総長を務めた濱尾新氏、第4代外山正一氏、第5代菊池大麗氏がいるが、戦後では初めて。
 有馬氏は各紙のインタビューに対し、「第1に心の教育。第2に大学の学部教育をきちんとする。第3には大学が新しい学問、科学技術を生み出すための環境を整えること」に重点を置きたいと語っている。センター試験を年2回行う構想を出すなど、山積みされた教育の問題を解決するため、有馬文相はすでに動き始めている。


遺伝子治療承認される

医科研が9月にも実施

胃がん遺伝子治療を行う本学医科学研究所

 本学医科学研究所付属病院の谷憲三朗助教授グループが計画している腎臓がんの遺伝子治療について、厚生科学審議会先端医療技術評価部会(部会長・高久史麿自治医大学長)は7月22日、「技術、倫理面ともに問題はない」とする結論をまとめ、臨床応用を承認した。さらに今月4日、文部省学術審議会の専門委員会においても同様の承認を得られ、これで必要な審議はすべて終了したことになった。この結果、9月に最初の治療が行われることがほぼ確実となった。
 遺伝子治療が許可されるのは、北海道大が先天性重症免疫不全症の男児に対して行った治療や、熊本大のエイズウィルス感染者に対する治療(その後熊本大は断念)に次いで3例目で、がん治療に対しては初めて。
 本学医科研の治療計画は、がん腫瘍に対する免疫力を高めるヒト顆粒球マクロファージ刺激因子(hGM-CSF)を、ベクター(運び役)を使って患者から取り出した腎がん細胞に導入し、その細胞を患者の体内にワクチンとして投与する方法。投与されるがん細胞は、放射線の照射で増殖能力を奪って安全性を確保してある。hGM-CSFはがん細胞を正常な細胞と区別して、リンパ球のがん細胞攻撃を支援する働きもする。米国などで行われた同様の治療では、3例中1例に効果が見られたという。


生命誕生、RNAから

渡辺教授ら実験データ発表

 生命誕生の引き金を引いたのはたんぱく質かリボ核酸(RNA)かの論争で、生命はRNAを起源物質として誕生したとするRNA説を支持する大腸菌の実験データを、渡辺公綱本学教授(大学院工学系研究科化学生命工学)らが発表した。31日発行のサイエンスに掲載されたこの論文は、原始地球でまずRNAが登場し、たんぱく質合成に進んだとする仮説に大きな根拠を与える強力な証拠として注目されそうだ。
 生命の根幹を支える細胞のたんぱく質合成工場はリボソームと呼ばれ、RNAとたんぱく質でできている。渡辺教授らは、大腸菌のリボソームに含まれるのと同じRNAを試験管内でつくった。2,904個の遺伝情報を持つこの分子を、アミノ酸運搬役のRNAにくっついているアミノ酸と混ぜると、アミノ酸同士が結合し、たんぱく質ができた。さらに、リボソームのRNAの鎖を切断して同じような実験をし、RNAのどの部分がアミノ酸同士を結合させる働きをするかをも突き止めた。
 生物の大半は遺伝情報をデオキシリボ核酸(DNA)に保管、DNAからRNAを経由してたんぱく質をつくっている。生命誕生に深く関わるDNA、RNA、たんぱく質は、その生成過程において、通常お互いの存在を必要とするため、生命誕生時における「ニワトリが先か、卵が先か」的難問が長い間議論されてきた。DNAが先か、RNAが先かについての議論では、約40億年前の地球でRNAが先に生まれ、DNAは後からできたという仮説が有力視されているが、RNAが先か、たんぱく質が先かについては、議論が分かれていた。


医科研戸田助教授ら

福山型先天性筋ジス

原因遺伝子を発見

 本学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの戸田達史助教授らは、筋肉が萎縮する難病の筋ジストロフィーのうち、日本人に多い「福山型」の原因遺伝子を発見した。この遺伝子の変異は、2000年前から2500年前の一人の祖先から日本人に受け継がれてきた可能性が高いという。
 戸田助教授たちは、患者の約100家族の遺伝子を解析した結果、原因の遺伝子は第9染色体にある遺伝子で、この遺伝子の突然変異で発病することを発見した。正常の状態では461個のアミノ酸からなるたんぱく質を作るが、患者の遺伝子では、ここに「レトロトランスポゾン」と呼ばれる遺伝因子が入りこみ、たんぱく質が作れなくなっていた。
 戸田助教授たちは周囲の遺伝子の解析から、2000年から2500年前、縄文時代か弥生時代の日本人に変異が起こり、日本人全体に広がり、現在まで遺伝してきたとみている。
 この研究成果は7月23日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載されたが、今後変異により合成できなくなるたんぱく質の働きを調べることによって、筋肉崩壊のメカニズムを知る手掛かりにもなるという。


「明治工学教育の父」の胸像、英から本学に

 125年前に英国から来日し、わが国の産業発展の基盤となった工学教育システムを築いたヘンリー・ダイヤーの胸像が7月29日、英国大使館から本学に寄贈された。
 ダイヤーは1873年に明治政府の招きで訪れ、工部省が設けた工部大学校(本学工学部の前身)の初代校長を1882年まで6年間務めた。当時、師弟制度に基づく現場優先の英国タイプと、理論優先の大陸タイプの2種類が世界の工学教育の主流であったが、ダイヤーはこの両者の融合を初めて試み、大きな成果を挙げた。
 胸像の製作者は、岩手県に住む英国出身のケイト・トムソンさん。
 寄贈は日英交流事業「英国祭98」の一環で、贈呈式は29日、東京国際フォーラムで行われた。


正門が登録文化財に

文化財保護審議会が答申

登録文化財に決定した本郷キャンパス正門

 文化財保護審議会(西川杏太郎会長)は7月17日、本学本郷キャンパスの正門や校舎など114件を登録文化財とするよう町村文部大臣(当時)に答申した。
 本学で新たに登録文化財となるのは、本郷正門と門衛所のほか、正門から安田講堂へ向かう道沿いに建てられている工学部1号館、法文1号館、法文2号館、法学部3号館、工学部列品館の5つの建造物。
 正門が造られたのは明治45年(1912)6月のこと。本郷通りが整備され、本学の西側の境界線が確定したことによって、それまでの「仮正門」に替わって造られた。当時の総長は濱尾新(はまおあらた)で、濱尾総長は東京市内の邸宅を自ら見て歩き、赤坂見附にあった閑院宮廷という屋敷の門をたいへん気に入り、これをもとに現在の正門を造らせたと言われている。設計は和洋折衷型の建造物を得意とした伊東忠太が担当した。
 正門から安田講堂へ向かう道沿いに建てられている校舎は、関東大震災後、第18代総長内田祥三の設計で建てられた。外壁にスクラッチタイルを使ったゴシック様式を取り入れたデザインが特徴。
 本学の建物としては、安田講堂が1996年12月に登録文化財第1号として登録されて以来の登録となる。赤門は重要文化財に指定されている。


先端研

技術移転会社設立へ

 本学先端科学技術研究センター(二木鋭雄センター長)は7月30日、国立大学に埋もれた新技術のための種を発掘し、特許として企業へ橋渡しするための技術移転会社「先端科学技術インキュベーションセンター」(東京・千代田区、社長・梶田邦孝日本経済研究所理事長、資本金1千万円)を今月3日に設立すると発表した。株主は当分のあいだ本学教官のみで、当面は無配当。これは、大学の優れた研究成果を民間に提供、新規産業の創造につなげる一方で、特許収入で得た利益の大部分を大学での研究費として還元するという、国立大学系としては初の試みとなる。
 新会社は、特許の取得と産業界への特許紹介、特許使用料の研究者・研究室への分配を主な業務にし、研究者にとって「雑務」の色合いが濃かった事務作業を代行する。分配に関しては、5〜30%を研究費として研究者に還元、残りの約6割は研究室や学部、大学に配分、約1割を新会社の収入とする見通し。年間で100件程度の出願をめざす。
 対象とする新技術は、本学のみならず全国の大学、国立研究機関が開発したもの。年間会費500万円で会員企業を募り、優先的に特許情報を流す。当初は、バイオテクノロジー、エレクトロニクス関連の特許が中心となる。
 米国の大学がインターネット関連などの新産業を積極的に生み出しているのに対し、日本では大学で開発した先端技術の企業化の遅れが指摘されていた。同様のシステムは、スタンフォード大、マサチューセッツ工科大など米国の有力大学で整備が進んでいるという。


駒場祭日程

11月21日から

 第49回駒場祭の日程が、7月16日の駒場祭委員会の学生委員会交渉で確認され、11月21日(土)から23日(月)の3日間開催されることが決まった。
 駒場祭は、毎年秋に開かれる駒場キャンパスでの学園祭。1・2年生が中心となって準備するため、文3劇場など駒場祭ならではの企画がある。以前は、五月祭が本郷生の研究発表を中心とするアカデミックな面が強かったが、最近は特に両者に特徴的な差異はなくなってきている。毎年3連休を利用して開催されているが、今年も11月23日が勤労感謝の日のため、3連休中の開催となる。
 駒場祭参加の企画申し込みは、7月30日で締め切られた。
 駒場祭委員会の問い合わせ先は、キャンパスプラザA棟102号室で、ホームページアドレスは http://www4.big.or.jp/~komasai/で、企画団体向けの様々な情報が公開されている。


キャンパス情報

第15回理学系研究科・理学部技術シンポジウムのお知らせ

 理学系研究科では技術系職員が教育・研究業務を遂行する過程で研鑚を積み、得られた成果を発表し、その技術レベルをより一層高めるための交流の場として、「理学系研究科・理学部技術シンポジウム」を開催する。
▽日時 8月28日(金)13時〜17時
▽場所 理学部1号館  206号物理講義室
▽内容 口頭発表、招待講演、特別講演
 特別講演「遺伝子導入技術の食品への応用」渡邊 昭(生物科学・教授)
▽問合せ先 技術シンポジウム実行委員会 青山惇彦(内線4455) 樫村圭造(4130) 桜井敬子(4254) 吉田和行(4372/78)


 8月に入り、試験も一段落したところだろう。さて、試験といえばシケプリが大活躍する時である▼試験対策プリント(だっただろうか? 略してシケプリ)と立派な名前がついてはいるが、いわゆるノートのコピーのことである。授業に出席していないが、試験を受けたい場合や、自分のノートにあまり自信がない時に、お世話になる有り難いものである。と、ここまでは他大学でも普通にあることだと思うのだが、駒場ではこのシケプリなるものが組織的に作成されている▼シケプリの総責任者たるシケ長を中心に、各授業ごとにノートを担当するシケ対(試験対策委員の略)さんがクラス内に組織されるのである。シケ長さんはみんながどの授業をとっているのかを調べ、シケ対を振り分ける。そしてテストが近づくと、各シケ対さんが大量にノートのコピーを用意する。自分がシケプリを提供するかわりにほしいシケプリを頂くという仕組みになっているのだ▼どうせノートをコピーするなら、より良いノートをみんなでコピーしあう方が合理的ではあるが、なんとなくピントがずれているような気がしなくもない▼いつ誰がつくったのか、シケプリは日常用語と化し、今やシケプリなしの試験など考えられない。我々が先輩から教わったように、このシケプリ制度はこれからも後輩へと伝承され続けていくのだろうか。