惑星科学のすすめ

1969年:惑星科学の夜明け

隕石から多くの発見 日本の惑星科学も夜明けに

3.2 南極隕石の発見:やまと隕石

南極で発見された大量の隕石試料

 前回述べたように、新鮮な隕石を集めるには、ある時にある所に落ちてくるのを待たねばならないが、既に過去に落ちているものを拾う事もできる。しかし、隕石の外のこげた黒い部分がはがれると、鉄隕石以外の多くの隕石は一見したところ普通の石と変わらない。ところが、それでも隕石を比較的簡単に見つけられる場所があった。
 日本の国立極地研究所からの南極越冬隊が南極のやまと山脈のふもとを探検していると、いくつかの黒い石が散らばっているのを見つけた。それらは隕石である事が分かり、Yamato-69隕石として知られている。南極の氷はこの山のふもとで気化してしまうので、力学的平衡を保つためにその山のふもとへよそから氷が移動してくる。それと同時に、南極各地に落下して氷に埋まった隕石も集まって来たというわけである。その後、主に日本とアメリカのチームが隕石探査を何度も行い、現在ではおそらく2万個以上の隕石が南極から回収されている。
 この大量の隕石試料は、それまで入手しにくかった珍しい種類の隕石をも多く含み、隕石に基づく惑星科学者にとっての宝庫となった。火星生命の可能性で有名になったALH84001も1984年にアメリカ隊が南極のアラン・ヒルズという丘で見つけたものだし、月からの隕石や、C型小惑星から来たと思われる熱変成を受けたCMコンドライトなどに関しては、日本の極地研究所の探検隊が多大な貢献をしている。

3.3 アポロ11号の月着陸・月試料回収

月試料から推測される月の起源

 1969年で何といっても有名なのは、7月20日にアポロ11号が月に着陸して試料を持ち帰った事である。それ以前は月の高地と海がどのような物質で出来ていてどのくらい古いのかなども確かではなかった。アポロ11号以降は、物質および年代が分かっただけでなく、年代とクレーターの数から隕石衝突率の変化や、酸素同位体組成が地球と同じである事などが分かった。それらの結果は、月の起源に関して現在最も有力な説である、「火星ぐらいの大きさの天体が地球に衝突して月が出来た」という考えをサポートする事となった。アポロ11〜17号が持ち帰った試料は未だに科学者の手によって研究され、新しい成果をあげている。

3.4 その他

 1969年は、その他にもSafronov博士の太陽系生成論の著書の英語版が出たり、小惑星の観測と隕石との関連がついてきたり、大陸移動説(大洋底拡大説)などが確認される前夜でもあった。1969年は隕石惑星科学にとっても夜明けであったが、日本の惑星科学全体としては現在が夜明けに近い。上記の3項目から分かるように、月・小惑星・火星などが最も身近な惑星科学の対象であるが、日本は今、SELENE、Planet-A、MUSES-C、Planet-Bなどのミッションによって独自の惑星科学技術とデータを獲得しようとしている。過去の30年間は惑星科学の飛躍的発展の時代であったが、今後の30年間はそれ以上の変化を見るであろう。
(昭和63年大学院理学系研究科博士課程修了)


今、防災について(20)

核燃料物質輸送中の事故対策を

 「災害は怖い、無防備はもっと怖い」。これは、9月1日は防災の日として国土庁が政府広報として新聞各紙に掲載されたキャッチ・フレーズである。
 今、日本にある51の原子力発電所等で使用される核燃料物質が日本全国を日常茶飯時に輸送されている。もし核燃料輸送車が交通事故、或いは地震等の原因により横転し核燃料物質が漏洩し、放射性物質が気化し大気中に放出されれば、安定した大気の状態では巾2km、長さ10kmの範囲はほぼ1時間で放射性物質で汚染されるといわれる(これらは原子力資料情報室のシミュレーションによる)。
 地域防災計画の「放射性物質災害対応計画」を有している自治体はまだ少ない。横浜市の「放射性物質対応計画」によれば核燃料輸送車が事故を発生させると、核燃料輸送事業者が事故発生を神奈川県警・科学技術庁・横浜市消防局に連絡をすることになっている。
 しかし核燃料輸送車の運転員・同乗者が死亡或いは大怪我をすれば通報は遅延せざるを得ない。核燃料輸送は核燃料処理施設のある自治体には通過の情報公開がされているが、施設のない自治体には全く輸送について事前の通知はされていない。神奈川県・横浜市は核燃料輸送車が行政地域を通過していることを全く知らされていない。従って前記のような事態が発生しても、即刻事故処理に出動したり、高速道路沿線の汚染予想地域に避難通報を出すことも期待できない。この間に放射性物質に地域が汚染され、地域住民は何も知らないまま、放射性物質を吸収してしまうことになる。例えば東名高遠横浜荏田付近で事故が発生すると、風速2mの気象条件で横横道路周辺の青葉区・都筑区・緑区・旭区・神奈川区・保土ヶ谷区・戸塚区・港南区等は1時間程度で汚染され、この地域にある小中校100校以上も高速道路より1km以内にあリ、早急に身を守らなければいけない児童が汚染される。また乳幼児・妊婦等も早急に避難ができない。また、気密性の高いコンクリートの建物の奥に避難しなければならないが、そういう建物は殆どない。
 住民への避難通報は同報無線により連絡されなければいけないが、横浜市には設備はなく、広報車やラジオ放送により周知するとしているが、緊急に伝達されるか心もとない。また放射性物質からの被曝を防止するためのヨウソ剤等を事故発生情報入手後直ちに服用しなければならないが、直ちに住民の手に渡るか不安である。
 放射性事故処理に出動する消防職員の放射線防護服も92年現在神奈川県には100着程度であり、その後増強されたか不明である。
 核燃料物質の輸送は情報公開が是非行なわれなければならない。核ジャックの危険性があるということであるが、せめて行政の防災機関に公開されていなければ、住民の安全は確保することは無理である(尚本稿は筆者が8月20日科学技術庁原子力安全委員会のヒアリングで意見陳述した核燃料輸送の防災体制の部分である)。

 都市防災研究会 代表補佐 大間知倫(おおまち ひとし)昭和33年経卒 TEL045-844-2885


あなたがキレる瞬間  ヒトはなぜ暴力をふるうのか

 ニコラス・レグシュ著 荒木文枝訳

 著者は米国のABC放送で、健康と科学に関するニュースやドキュメンタリーを制作しているジャーナリスト。米国で大きな社会問題となっている暴力を取り上げたことが、本書を出すきっかけとなった。人間がどうして抑制を失い、暴力を振るってしまうのかを、医学や人類学、心理学、社会科学など広範な知見を動員して探っている。
 脳の損傷や脳内化学物質のバランスが崩れると、どんな人でも暴力に対する歯止めがきかなくなる場合があることが、脳科学の発達で分かってきている。「まじめでおとなしい人だったのに、信じられない」という、事件後によくある感想はこうした人に多い。脳の異常は先天的なものもあれば、出産時や成育時での事故によるものもある。
 生物学的には、そもそも進化が暴力によってなされてきたとする説がある。要するに、力の強いものが生き残ったからである。暴力の中身を分析すると、それは支配欲である。そして社会ダーウィニズムのように、人間社会においても、上昇するものが善であるという価値観が一般的な現代社会は、そもそも暴力を是認した社会なのだという。支配欲がいびつな形で表現されると、妻への暴力や児童虐待になる。
 テレビや映画、ゲームなどの暴力情報が人間に与える影響については、専門家によって見解が分かれている。しかし、特に児童に対して悪影響があるとすれば取り返しのつかないことだし、少年犯罪の急増、凶悪化もあって、テレビの過激な性や暴力シーンを自動的にカットするVチップの導入が進められている。この問題は、日本でも議論が始まっているが、基礎となる影響調査の遅れがネックとなっている。
 いくら読んでも結論らしきものはないのだが、そもそも人がキレるのを、何か一つの原因に求めるのが間違っているのであろう。逆に、一つでも長所があればキレることはないというのが、人間にとって救いのように思える。
    (T)
(柏書房、本体1800円)


イベント情報

中島潔の世界展

 中島潔は少年時代の思い出、ふるさとの四季を彩る自然や人々を鮮やかな色彩で描き、「風の画家」として数多くの童画を生み出してきた。本展では画業30年を記念して懐かしいふるさとの日本人の絶えることのない憧れ、こころのふるさとを描いた作品から「源氏物語五十四帖」までの新作、代表作など合わせて約110点により中島潔の全容を紹介する。
会期 10月20日(火)〜11月1日(日)午前10時〜午後7時(10月26日・11月1日は午後6時閉場)※入場は閉場30分前まで
会場 日本橋三越本店7階催物会場
入場料 一般・大学生 500円 高校・中学生 300円 小学生以下無料