臍帯血移植、成人で成功

白血病治療に新しい道開く

 本学医科学研究所付属病院は10月22日までに、赤ちゃんのへその緒や胎盤から採取した血液を移植する「臍帯血移植」により、国内で初めて成人の白血病患者の治療に成功した。今まで臍帯血移植は採血量が少ないため、治療が子供に限られていた。この成功によって大人への普及の道が開かれると、適用患者は3倍に増える。骨髄移植に比べて提供者(ドナー)が見つかる確率が高いため、白血病患者の治療法を広げる成果として期待されている。

 患者は関西地方に住む主婦(28)で、急性骨髄性白血病で入院。骨髄バンクに患者登録をして待機していたが、提供者が見つからなかったため、今年8月27日、臍帯血で適合するものを探し出し移植した。19日目にがん化した白血球細胞に代わって、移植した臍帯血の造血幹細胞が働き始め、ほぼ健康を回復したため、10月24日に退院した。
 臍帯血は、赤ちゃんの出産後に必要のなくなったへその緒や胎盤に含まれる血液で、血液の元となる造血幹細胞が多く含まれており、白血病の治療に有効とされる。しかし、一人の出産で採れる血液は100ml程度で、この移植による治療は子供に限定されていた。成人への移植も国内で2例が行われたが、いずれも入院中に患者が死亡し、失敗に終わっている。
 本学医科研は、臍帯血に含まれる造血幹細胞を効率よく回収し、生着率を高めるため、凍結前に投与された保護物質を除去する最新の洗浄法を国内で初めて駆使。これによって、少ない採取量で大人への移植が可能になった。
 従来の白血病治療法である骨髄移植は、提供者が不足しているうえ、ドナーに全身麻酔をかけるため危険性も大きい。また、骨髄を採取する間、患者は待機しなければならない。これに対し臍帯血移植は、ドナーへの危険性は全くなく、お産後廃棄される臍帯血を凍結保存し、解凍すればいつでも実施できる。適合条件も骨髄移植より緩やかで、適合率は10倍高い。
 同研究所の浅野茂雄院長は「慎重に検討する必要はあるが、大人にも可能と分かれば、救命のチャンスが広がる」と話している。


文化勲章・文化功労者

森亘元総長が受章

本学名誉教授から4人

 1998年度の文化勲章受章者5人と文化功労者15人が23日、政府から発表された。
 文化勲章には本学名誉教授から、戦後を代表する建築家として活躍した芦原義信氏(80)、国内外の東南アジア史学の発展に貢献した山本達郎氏(88)の両氏が選ばれた。文化功労者には元本学総長の森亘氏(72)と斎藤成文・本学名誉教授(79)が選ばれた。
 本学関係受章者の略歴は以下の通り。(敬称略)

【文化勲章】
芦原 義信(あしはら・よしのぶ)
 建築家。本学名誉教授、武蔵野美術大学名誉教授。日本建築界の第一人者。68年「モントリオール万博日本館の建築設計」で日本の伝統美を結晶させた作品として世界の注目を集め、芸術選奨文部大臣賞を受賞。国立歴史民俗博物館の建築設計では日本芸術院賞を受けた。70年から本学教授を務めた。
山本 達郎(やまもと・たつろう)
 本学名誉教授(東洋史学)。日本における東南アジア史研究の先駆者で、対象は中国、ベトナム、インドなど多岐にわたる。34年に発表された「鄭和の西征」で明の鄭和に率いられた中国艦隊のインド洋遠征の実態を解明。国際的に高い評価を受けた。52年、「安南史研究」でベトナム史の空白とされていた部分を埋め、日本学士院賞を受賞した。49年から本学教授を務めた。

【文化功労者】
斎藤 成文(さいとう・しげふみ)
 本学名誉教授(宇宙電子工学)。マイクロ波工学、レーザー光工学の分野で独創的な研究業績をあげ、日本の宇宙開発の主導的役割を果たした。宇宙通信関連技術の研究などで、国内外で高い評価を受けている。57年から本学教授を務め、94年国際宇宙航行連盟アラン・D・エミール記念賞を受賞。
森 亘(もり・わたる)
 本学名誉教授(病理学)、元総長。劇症肝炎の病理発生を解明し、肝炎や肝硬変、肝細胞がんの因果関係に関する病理形態学的立場からの新知見を確立するなど、独創的な研究で病理学の分野に大きく貢献した。85年第23代本学総長に就任。退任後は日本医学会会長を務めている。


教育学部

公開講座始まる

「子どもの自立について」

 平成10年度の本学教育学部公開講座が10月31日から始まった。テーマは「子どもの社会的自立にどうむきあうか ―家庭・学校・地域社会の連携―」。
 本講座は計4回にわたって開催される。第1回は中野区にある東京大学教育学部附属中・高等学校で行われ、一般受講者が80人ほど参加した。
 開講挨拶は佐伯胖・本学教育学部長で、「教育は世の中で今、一番重要な問題です。しかし、学校だけではもう教育は限界です。今回の講座では、家庭・地域を中心に子どもの自立を考えていきたい」と語った。
 また、来賓として子安圭三・中野区教育長も挨拶を述べ、学校・地域・家庭が一体となって取り組んでいくことの必要性を訴えた。
 最初の講義は社会教育学専門の佐藤一子・本学教育学部教授で、「子どもの自立と家庭・学校・地域」というタイトルで講義した。佐藤教授は「豊かさの裏返しで、現代は自立が困難になっている」とし、ファミコンやメディアの悪影響にも言及した。また子供の「居場所」づくりが必要であると語った。
 次に、「家族の病理と父親の子育て参加の課題」と題して、亀口憲治・本学教育学部教授が講義した。亀口教授は臨床心理学、特に家族療法が専門で、米国で学んだ体験をもとに、日本の家族について語った。具体的なデータをあげながら、母親に任せっきりになっている子育て状況を憂いた。
 どの受講者も真剣に耳を傾け、講義後の質疑応答では、子どもをもつ母親らが数人、手を挙げ積極的に質問する姿が見られた。


司法試験合格者

昨年より25人増加

本学15年連続トップ

 98年度の司法試験合格者が10月30日発表された。司法試験管理委員会によると、出願者30,568人に対し、合格者は過去最多の812人(昨年度746人)で、合格率は2.66%(同2.75%)だった。
 本学の合格者は213人で昨年より25人増え、15年連続でトップを守った。2位は昨年と同じく早大だが、昨年5位だった慶大が中大、京大を抜いて3位に躍進。合格者も昨年より24人増えて91人となった。
 合格者の平均年齢は26.90歳(同26.26歳)で昨年より若干高くなった。平均受験期間は4.93年(同4.42年)だった。昨年過去最高を記録した女性合格者は203人で、昨年より4人減少した。


 今朝、電車に乗ってきたら、広告がすべて大学や高校の紹介だった。ウチの学校を受験してください、というわけである。もうそんなシーズンかと、自分の本学受験の頃を思い出したあの頃は合格できるかどうかで頭がいっぱいだった。合格後のことまで考える余裕がなかった。先生や先輩からのアドバイスで、よく「入試は一つの通過点に過ぎない」と聞いていたが、そんなこと言われてもこっちは入試のことだけで頭がいっぱいなんだ、と反発の思いを持っていたしかし、入学してしばらく経ってみると、本当に通過点に過ぎないとつくづく感じる。これからも勉強は続くし、競争は続く。いや、これからが本当の勝負なのである。東大合格で人生安泰ではない。ましてや幸福を保証されるわけではないのだ。そもそも受験勉強で身につけたことなど、学問の初歩の初歩でしかない。大学ではもっと深く自分で考えることが要求される周囲の友人をみても、目的をはっきりと持って入学してきた者と、とにかく受かればいいやと無目的に入学してきた者では「伸び」に雲泥の差がある。東大に行って何をしたいのか? なぜ東大なのか? 何のために勉強するのか? 受験前からよく考えておかないと、大切な教養学部時代がムダに過ぎてしまう可能性が高い。