惑星科学のすすめ |
隕石と小惑星の謎 (1) |
4.1隕石はどこから来たか?
隕石については前回も少々触れたが、ここではそれらがどこから来たのかということに的を絞ることにする。隕石が良く知られていない時代には、それが空から落ちて来たのを見たという人の証言はUFOを見たという人のように簡単には信じられないものであった。ところが時代が下って人口が多くなり、高度の観測機器も出てきて、隕石が確かに空から落ちてきているのだということと、更に運が良ければそれが地球に落ちる前はどんな軌道を描いて太陽系に存在したのかということを計算できるようになった。そんな隕石の一つがロストシティー隕石で、その軌道は地球軌道に交わるような部分から小惑星帯に交わるところまで伸びた楕円であった。このことは、隕石が小惑星帯から来た可能性があることを示唆する。
一方、以前に紹介した太陽系生成論に依れば、太陽系は塵とガスからだんだん大きくなって固まったのだから、小さなかけらが取り残されていて隕石として降ってきてもおかしくないと考えられる。実際、地球がまだ現在の大きさに成長していないころは、隕石が多く降り注いでいて、それゆえにここまで大きくなったのである。しかしながら、そんな46億年も前の材料物質が未だにどの惑星や衛星にも取り込まれずに浮遊しているだろうか? 多数の学者の意見は「否」である。隕石の中には、ただ単に塵が固まったまま1mくらいの大きさ以上に成長せずに隕石として落ちて来たというものは見当たらない。先に述べたコンドライトにしても、最も原始的な隕石といえ、その組織を見ると水か氷が常温近くで鉱物を水質変成させたり、加熱して低温鉱物を熱変成させたりというような隕石よりもずっと大きな天体でないと起こりにくいような現象が起こったことが分かる。したがって、隕石は塵がいったんある程度大きな天体に成長した後でそれが壊れてできたかけらであると考えられる。また、隕石を常に生産するためには、今現在も衝突が頻繁に起きている場所から隕石が来なくてはならない。
それと、隕石の溶融固化年代は非常に古い。大部分が45〜46億年前である。普通大きな天体(惑星・衛星)にある岩石は、その天体の熱・水か氷・隕石衝突・風化作用などによって変化してしまう。太陽系生成時からほとんど変化していないのは、比較的小さい天体で、大気や水もなく内部の放射性元素の発熱も小さいようなものしかない。
以上のことから自然に結論されるのは、大部分の隕石は小惑星から来たということである。望遠鏡で観測してわかるように、大きくて観測にかかる小惑星だけでも何千と存在する。小さなものまで数えたらまた桁違いに多いはずである。また、太陽系生成論で触れたように、小惑星帯は木星に近く、木星の摂動によって軌道をずらされて円軌道からのずれが大きな楕円軌道となって、お互いに衝突しやすくなる。もちろん、彗星から来た隕石もあるだろうが、氷を含む場合はその氷が大気圏突入時に溶けて空洞を作り、隕石が破壊されてしまう。それゆえ、彗星からは塵(ダスト)としてのみ物質が降ってくると考えられる。また、例外的な隕石としては、月または火星から来たと考えられている隕石である。それらは月や火星の初期の大規模な地殻活動の記録を残している。
大部分の隕石が小惑星帯から来ているというのは非常に都合がいい。なぜなら、小惑星帯は地球から遠いので今のところ簡単には石を取って来るわけにはいかない。また、小惑星はあまり大きくなれなかったために、太陽系の材料物質が固まった後で変成する途中で止まってしまった様になっている物が多く、太陽系物質の材料物質から現在の物質に至る進化の歴史を語りうるものである。
4.2 隕石がどの小惑星から来たかを調べる方法
上述したように、隕石は小惑星が衝突してできたかけらであるから、その小惑星は運が悪ければもはや存在していないことになる。しかしながら、望遠鏡で見えるような比較的大きな小惑星は、衝突が起こっても生き延びる可能性が大きいと考えられ、そのかけらが地球のどこかに過去に落ちたかもしれないと思うのは自然である。
特定の隕石がどの小惑星から来たかを調べる第一歩は、岩石及び鉱物組成が同一かどうかを調べることである。そのために、小惑星に行って試料を取ってくる以外に最善の方法は、望遠鏡で見える小惑星からの太陽光の反射を分光して、隕石にも同様の測定をし、それらの反射スペクトルのパターンを同定することである。これは簡単そうに聞こえるが、実は奥が深いことである。実を言えば、筆者はこの小惑星と隕石の鉱物学的分光学に取り組んで10年以上になるが、未だに未解決のことは多く、新しい観測・実験・解析が新しい結果を生み出し続けている。
この方法の結果については次節以降で詳しく解説するが、最初にこの反射スペクトルを用いてユークライトという隕石と小惑星べスタとの類似性を指摘したのがマッコードという人で、1970年にその論文が出ており、惑星科学の夜明けである1969年にはもう取り組んでいたに違いない。
(昭和63年大学院理学系研究科博士課程修了)