留学生座談会 東アジア編

参加者

朴 敬蘭さん(韓) 工学系研究科 精密機械工学専攻 博士課程
白 秉天さん(韓) 総合文化研究科 国際社会科学専攻 研究生
車 香春さん(中) 人文社会系研究科 基礎文化専攻 研究生

 1999年を迎え、1995年代最後の1年が始まった。国際化社会が叫ばれるようになって久しいが、世界には難しい問題が山積しているのが現実である。21世紀を目前に控え、今、学生の私たちが世界を担う時代が近づいてきている。そのためにも異文化の理解と価値観の確立が必要となってくる。今回、本紙連載中の「留学生の眼」のスペシャル企画として、1月2日に本学在学中で東アジアから来ている三人の留学生に、「母国でのお正月の過ごし方」、「1999年について」、そして「どうすれば世界平和が実現するか」について語り合ってもらった。

新年は歳拝から始まる

司会 あけましておめでとうございます。それではさっそくですが、母国ではお正月はどのように過ごすのか、教えてください。
朴 お正月には先祖参りをします。長男の家では食べ物をたくさん作って家で拝んだりします。また、お墓参りにも行ったりします。両親や親戚などに「歳拝(セベ)」(韓国式の敬礼)をしますが、それをした後にはお年玉がもらえるので、毎年楽しみにしていました。お正月には長男の家に集まった親戚たちが、みんなで集まってものを食べながら、遊びます。特に花札をしてた覚えがあります。
白 あと、4本の木の枝を使って遊ぶ「ユンノリ」というすごろくのようなゲームもします。ところで韓国では、陽暦のお正月にまとめようという試みがあって、一旦、旧暦の連休をなくしてしまったんです。でも何年か経って、陽暦のお正月は気持ちがのらないという世論が高まってきて、旧暦のお正月も認めようということになったんです。
司会 旧正月のお休みはどれくらいですか?
白 2、3日ぐらいです。
車 香春さん

中華人民共和国延辺出身延辺大学で英語学を専攻。97年1月に来日。現在人文社会系研究科基礎文化学専攻研究生

車 え?それくらいしか休まないんですか?中国では6日とか7日くらいお休みです。やっぱり旧正月がとても盛大です。私は中国でも朝鮮族だから、家庭では韓国風にお祝いします。うちのお父さんが長男だからみんな集まって、朝早く起きて順番に歳拝をします。お父さんとお母さんが座って、一番上のお兄さんから順番に歳拝します。小さいときには兄弟同士でも歳拝をしたんですが、今はあいさつだけになりました。それが終わってから朝ご飯を食べるんです。食べ物は中国風と韓国風が混ざった感じです。朝は韓国風にトック(餅)が入ったスープを食べますが、夜には餃子とか食べます。元々餃子を作るようになったのは、お正月の前に餃子をたくさん作って凍らせておいて、お正月の休みの間は食事の準備に手間がかからないようにしておくためだったんです。今はちゃんと作って食べるんですけど。あと一番面白いのは大晦日の12時ごろになると爆竹がすごいことです。最近は禁止になったんですが、あれは悪い鬼を追い出して新しい福が来るようにということでやるんですよ。中国人はすごく縁起を気にするので、爆竹に結構お金をかけてやるんです。

もっと楽観的に生きるべき

司会 それでは次に今年1999年について話しましょう。今年のビジョンやどのような年になると思うかなどを聞かせてください。有名なノストラダムスが全世界が滅びるという恐ろしい予言を残している年でもありますね。
朴 その予言に関して、確かにノストラダムスは様々なことを予言し、その通りになったこともあるかもしれませんが、それはあえて人々が出来事をそのように解釈しただけなのではないかと思います。確かに、世界が滅びるようになっていることは、私も信じていますが、1999年だとは、個人的には信じていません。やはり世界的に不安を感じているから、そのような関心も出てくるのではないでしょうか。たとえば去年、神社参拝に行った人の数が、おととしに比べて二倍三倍に増えたという話を聞いたんですが、それを見て何がわかるかというと、みんな未来に対して不安があるし、現在に苦しみがあるから、そこに希望や頼りを求めに行くのではないかと思うんです。私個人としては、今年も、私なりに、誠実に、一日一日を過ごして行きたいと思います。
白 私は韓国では貿易を専攻していたんですが、日本に来てからは環境について学んでいるんです。だからまだあまり良くはわからないですが、学んでいく中で、21世紀は環境を重視することが大切だと思えてきたんです。専攻を生かして私のビジョンを実現したいと思っています。私は自分のことを思うと学者の素質はないと思うんですよ(笑)。でも先生とか教授という立場ではなくても実力を伸ばしていく中で、社会的な活動をする事はできると思うんです。例えば環境コンサルタントとかをやりたいと思っています。あと個人的なことですが、私は今年30になるんです。30歳になる前に結婚したいなあと思っていたんですが、それどころではないという感じです。まだ相手もいないし…(笑)。
司会 相手はどんな人がいいですか?
白 やっぱり話ができる友達みたいな人がいいです。長く一緒に生活するわけだから、そういうような人がいいと思うんです。
司会 それでは車さんにとって1999年はどのような年と考えていますか?
車 例年に比べて、宝くじを買う人が増えたそうなんですが、不景気になると、みんな運勢に身を任せるようですね。人々がみんな不景気だ不景気だというからみんな不安で、いつ不景気が終わるのだろうかと心配しているみたいですが、私としては一日一日を自分なりに充実させたほうがいいと思いますね。みんな心配しすぎずに、楽観的に生きたほうがいいと思うんです。

環境問題から世界平和を

司会 では次のテーマですが、世界平和はどのようにしたら実現するのでしょうか? ちょっと大きなテーマかもしれませんが、留学している皆さんの使命は大きいのではないでしょうか?
白 みんなでやりましょう(一同笑)。やっぱり環境の面でも自分の国だけでがんばるだけではできないですね。国際協力が必要です。21世紀は協力の時代だと思いますよ。冷戦の時には軍事的な競争が激しかったのですが、今は目に見える競争はなくなっても形が変わって経済的な競争が激化しています。世界平和といってもいろいろな観点がありますが、やはり目に見える豊かさだけを求めてはならないと思います。自分の利益だけを考えてしまう経済的な面からでは、一つになることは難しいと思います。でも環境に関してならば一つになれるはずです。同じ目的に向かって進んでいかずに、一つになることはできないですから。環境問題は豊かな国も貧しい国も関係のない課題なので、環境問題を中心として協力していく中で、経済的にも政治的にも交流ができやすいのではないかと思います。そこでは、日本の役割が大きいと思います。環境のことで接近していけば、政治的にもより良い友好関係が築き上げられるのではないでしょうか。
司会 白さんはそういう中で具体的にどのようなことをしていきたいですか?
白 まずはいろいろな国のことを経験したいですね。韓国にいて、ただ本を読んで、貧しい国を助けようと言葉で言っているだけではなくて。自分がその環境を見たら動かなければと刺激されるでしょうし。さっきも話したように、環境コンサルタントなどをやってみたいと思います。それも狭い一国のことではなく、国際的な協力に関する仕事をしたいですね。国連とかではなくNGOとかで。やはり国が行動したらどうしても自分の国の利益を考えてしまいますが、NGOであれば、本当に純粋な働きができるんです。
白 秉天さん

大韓民国大田出身。培財大学で貿易学を専攻。98年4月に来日。現在総合文化研究科国際社会科学専攻研究生

司会 どこか行ってみたい国はありますか?
白 実は子どもの頃はこういうことはあまり考えたことはなかったんです。このように視野が広がったのは私が5、6年前に聖書に出会いクリスチャンになってからです。自分のことや周りのことだけでなく広く見ようと意識するようになったんです。中国にも行ってみたいですね。
車 大歓迎です(笑)。
白 環境面でも中国が失敗したら世界が失敗したといえるんです。他の国が成功しても中国が失敗したら世界は失敗です。人口も12億ですし。だから日本と韓国が力を合わせて中国をどうするかを考えるべきです。
車 中国ではどこも環境問題がひどいんですよ。国全体が、特に黄河流域がひどいです。どんぶりで黄河の水をいっぱいに汲んだら、その3分の2は砂だというように砂漠化も進んでいるんです。しかし、一番大変なのは経済です。経済的に豊かにならなければ、環境問題にお金を回したくても、できないではないですか。
司会 食糧問題と環境問題とのバランスには難しいものがありますね。
車 ええ。世界的にも中国は一番多い人数の食糧問題を解決したことがすごいといわれるのですが、毎年どこかで洪水など災害が起こっていますし、私の考えではまだまだ食糧問題は大変なのではないかと思いますね。世界平和という観点から見ると、最近のユーロの話がありますが、それもすごくいいことだと思いますね。生活の不便さを解決しながら、世界平和を共に実現して行くということがいいと思います。食べる物も住む場所もない中で、他の人を助けようとしてもできないではないですか。中国でも内陸の方へ行くと、すごく生活が大変で、中国自体についても知らないような人がたくさんいるんです。そういう所へ行ってボランティアをするならば、世界平和とは言えなくても、人々の心を豊かにすることができるのではないかと思います。あと中国でも経済の自由化を進めていますが、それぞれの国が成長しなければ、世界平和は考えられないと思います。

家庭の崩壊は問題の中の問題

朴 敬蘭さん

大韓民国ソウル出身。高麗大学で、数学教育を専攻。91年3月に来日。現在、工学系研究科精密機械工学専攻博士課程

朴 私はクリスチャンなので、それを前提として話さざるをえません。ローマの帝国の時にイスラエルの民族はいつローマの植民地から解放されるかということだけに関心がありました。イエス・キリストの弟子たちさえ、そのように思っていたのです。イエスがイスラエルの王になってローマから解放されて、良いイスラエルを建てるのだろうと考えていたんです。しかし、イエスは世界を見ていたのです。イエス・キリストが世に来られたのは、世の人々のためでした。今世界に必要なことは、みんなが神から離れて苦しんでいるわけだから、「あなたがたがイエスがキリストであることを知り、信じ受け入れて、救われたように全世界にこの福音の知らせを教えなさい。あなたがたの力ではできないから、聖霊の力によってできるようになります。」という聖書の内容があるのですが、それを理解して、そのように自分たちの民族だけではなく世界を見ることが重要なのだと思っています。そして世界を実際に生かすのは剣ではなくイエス・キリストの愛であったのです。
 ここで、愛という言葉は人それぞれの考えによって、理解が違ってきます。ある時、「その人を愛すべきだ」とか「その人は今、愛を必要していますよ。それでその人の心が癒されます」と言われたのですが、私は、「その人を愛せませんよ」と心で、正直に言ったんです。そして、その時私は正直に、創造主、唯一の神様に祈ったんです。「その人を愛せません。私にその人を愛することができるような力を下さるようにお願いします」と。するといつの間にかその祈りが聞かれました。その人がかわいく見えるようになりました。その人を愛することが義務感ではなく自らできるようになったんです。私がしたのは、その人のために、キリストの力と愛と命が、臨まれるように祈っただけです。キリスト・イエスの愛、すなわち、福音が理解できる分、人を愛するようになるのです。人間って、愛するものではなく、愛されるものだからです。私はキリストがわからなければ、愛もわからないと思っています。神の愛をいただく道がキリスト・イエスであり、イエス・キリストによって救われてから、人を正しく、愛することができるようになるわけです。自ら愛そうとすることは、愛にもならないし、努力に過ぎないし、実際に実を結ばないのです。そして自分だけ疲れてしまうんです。
司会 朴さんはどのような形で社会に貢献をしたいと考えていますか?
朴 今は大学に属していますが、勉強を続けた理由は何かというと、やはり若者を生かさないといけないと考えてきたからです。これからどうなるかわからないですが、何をするにしても、その姿勢は変わらずに生きていきたいと考えています。大学から社会に出たときに社会の大きな波に飲み込まれてしまい、自分を失ってしまい、世の中こんなものだといって流れていってしまう。その時勝てる力がないから流れていってしまう。そのためにも大学を生かす姿勢が必要なのではないかと思うんです。それをするためには先生という立場が最も良いポジションではないかと思っています。結婚もするべきだと思いますが、昔は好きな人ができたら、結婚しようという単純な考えだったんですよ。でも家庭というものはものすごい重要なことだということも、聖書を通して知るようになりました。二人が一つになるのはものすごい秘密があり、パワーが出るのです。家庭の崩壊は、本当に問題の中での問題だと思っています。その中で、子どもの教育はとても、重要だと思っています。ただ自分の子だから愛するのではなくて、後で、実際に社会に貢献できる子どもに育てるのです。だから私が何になるかではなく、様々の面において、どのように貢献できるのかを考えていきたいと思っています。
司会 車さんはどう考えていますか?
車 内モンゴルなんかも遊牧民族などは、住む場所は決まっていないので学校に行くことはできないし、それに加えて教育の必要性を感じていないので行かせないんです。そこの人たちは食べて生きていくことだけで精一杯で、他の国のことなどには関心がないのです。また北朝鮮なんかも、国を守ろうということしか考えていないですね。私は他の国の良いところ、文化を知って交流する方が良いのではないかと思います。例えば日本人を見てがんばりやさんだと感じたら、「あれいいな」と思って自分でもがんばりましょうという方が良いと思うんです。わたしとしては今、言語学を勉強していますが、将来は中国に帰って、日本はどういう国かとか、留学のときの大変さなど私が感じたことを伝えたいんです。私が感じたことを一人で感じて終わらせたらもったいないなと思うんです。良いことでも悪いことでも、「それはよい経験だった」、「あのときは考えが幼かった」とか自分なりに他の人に話すことで、その人が留学するとき私がした苦労はしなくてもいいかもしれないし、より自分の能力を生かしていくことができるのではないかと思うんです。
司会 白さんはやはりこれから環境の分野で活躍していきたいですか?
白 より広い範囲で環境のことを考えていきたいですね。でも最初は自分の周りから始めないといけないのではないかと思います。
車 私たちは大学の教育を受けて良い教育を受けているわけですが、そういう者同士が自分なりに話し合っても解決はなかなかできないと思います。教育を受けていない人や貧しい人々の中に入ったりして、勉強したこととかをその人たちがわかりやすいように教えてあげなければならないわけです。一番下のレベルの人たちを助けるような気持ちでやるのが一番大切だと思います。