淡青手帳

第839号(2001年9月5日号)

 先日、実習のため田無にある東大試験農場を訪れた。三泊四日の短い期間であったが、土・野菜・稲などに久しぶりに直接触れることができた。ジャガイモ掘り、クワを使っての作業など、都会に住んでいては体験できないスケジュールが続いた。

 最終日は稲の収穫の予定だったが、雨天のため中止となってしまった。雨の中の作業は効率が悪く、またカマを使う作業ゆえ、怪我をする危険性があるからである。

 初めての稲刈りを楽しみにしてきたのは確かだが、しかし中止と聞き、心の中には雨の中での作業が避けられると安堵する思いが浮かんだ。実際、それを口にする者もいた。

 しかし、その後の休憩時間に先生がポロリと漏らした言葉が心に響いた。この稲は、この実習のこの一日のために四月から準備を始め、ずっと大事に育てて管理してきたものだというのだ。学生たちの稲刈り体験のため、見えないところで汗を流す先生方の姿があったことに、この時初めて気付かされた。

 物事の背後には見えない努力と苦労がある。そういったものはともすれば見過ごしてしまいがちなものだ。しかし、そのような努力・苦労を見出し、感謝することのできる人間でありたい。

 結果的には雨のため流れてしまった四月からの技術官や先生方の努力。しかしそれは各々の心の中に刻み込まれ、永く残るものとなることを願いたい。  

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