淡青手帳

第877号(2002年12月15日号)

 12月9日降雪。本郷キャンパス銀杏並木、正門から安田講堂に続くその道は、黄色の絨毯から白色のそれへと衣替えがなされた。例年より早い衣替えである。

 さて、錬金術では、黒化、白化、黄化、赤化と4つの作業過程がある。作業当初の混沌状態である黒色(ニグレド)から洗礼等の過程を経て白化(アルベド)し―月の状態―、黄化(キトリニタス)を経て、赤化(ルベド)―太陽の状態へと高められる。白色と赤色は王妃と王であって、これらの過程を経て「化学の結婚」へと到達する。

 ユングは、錬金術と無意識との間にパラレルな関係を見出し、西欧文明の根本を問い直したが、今こうして安田講堂における四季の変遷に身を曝されながら、東大の歴史に思いを馳せる衝動を抑えられない。

 全共闘安田講堂事件、あの時、東大赤化に燃えた学生らは、文字通り東大を火炎瓶で赤く燃やした。あれは、何であり、何でなかったのか。どっしりと構える「彼」は何も語りはしない…。

 閉ざされた口は、平成3年卒業式で事件以来24年ぶりに開放された。その年の入学式には純白のロングドレス姿で「東大と結婚します」と告白した女学生もいたそうだ。

 悲劇と茶番を両脇に抱え、東大は何処へ行くのか。白い雪が幾人もの足跡に耐え、薄黒く、浅光りしている。寒さに涙が誘われる。

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