淡青手帳

第891号(2003年6月15日号)

 ――五月雨をあつめて早し最上川――愛する故郷山形で、松尾芭蕉が詠んだ句である。「五月雨」とは、夏の季語で梅雨のこと。当時の五月は今の六月だったわけである。

 「梅雨」を英語で何というかご存知だろうか。Plum rain? 残念ながらそんな英語は存在しない。強いて言えば、rainy season といったところだろう。「雨季」―やや苦しいが。梅雨という英語が存在しないのは、英語圏に梅雨というものが存在しないからだ。

 そもそも梅雨とは、日本列島の南岸に停滞する梅雨前線により、長期間降り続く雨のこと、またはこの頃のじめじめした気候の季節をいう。前線とは、簡単に言えば暖かい空気と冷たい空気がぶつかる境界面のことで、梅雨前線は北のオホーツク高気圧から吹き込む冷たい空気と南の太平洋高気圧から流れ込む温かい空気がぶつかることによりできる。この温度差が降雨をもたらすのである。「梅が熟す季節の雨」から、「梅雨」と呼ばれるようになったとも言われている。

 「梅雨」は、日本と、中国の一部というごく狭い範囲の独特の気候である。多彩な四季を持つ日本ならではの梅雨。雨は気が滅入ると嫌がる人も少なくないが、日本の風土を味わっていると思えば、少しは感じ方も違ってくるのではないだろうか。

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