花だより(359)
東京大学名誉教授 湯浅 明
マルバウツギ
マルバウツギは本州、四国、九州の山地に生えるユキノシタ科の、高さ1.5mくらいの落葉潅木である。葉は卵形で、対生、ざらつき、葉脈は表面で凹んでいる。五〜六月頃、枝先に房状に白い花をつける。がく、花弁は5片、雄しべは10本。和名マルバウツギは円葉ウツギで、学名はDeutzia Sieboldiana Maxim.といい、DeutziaはThunbergの後援者オランダのJohan van der Deutzに対して一七八一年に捧げられたもの。Sieboldianaは「シーボルトの」である。
マルバウツギと同属(Deutzia)の日本産植物にはウツギ(ウノハナ)、ヒメウツギ、オオヒメウツギ、ウラジロウツギ、ウメウツギなどがある。ユキノシタ科の染色体数は、ウツギ2n=130、ヒメウツギ2n=26、ノリウツギ2n=36、ガクウツギ2n=36、マルスグリ2n=16、ユキノシタ2n=54などがある。
ウメウツギは関東、中部地方の山地にある落葉潅木で、高さ1mより低い。葉は対生で、だ円形で、先とがり、質はうすく、表裏ともに緑色でざらざらしている。五月頃、白い花を単生し、くびをたれて咲く。がくは小形で、花弁は5片。花の直径3p、雄しべは10本。ウメウツギは花のようすを梅の花に例えたもので、学名はDeutzia uniflora Shiraiで、unifloraは「花が単一の」である。Shiraiは命名者が東大名誉教授、白井光太郎である。
ユキノシタ科のシラヒゲソウは本州中部、西部、四国、九州の山地に生える多年生草本で、根生葉はハート形で束生し、八〜九月頃、花茎を出して頂上に一個の白色花をつける。がく、花弁5片。花弁のへりは細くさける。雄しべ5本。シラヒゲソウは白鬚草と書き、花弁のへりが細く切れ込んでいることによる。シラヒゲソウの学名はParnassia foliosa Hook. f. et Thoms. var. nummularia Nakaiといい、ParnassiaはギリシアのParnassus山の名に因んだもの。foliosaは「葉の多い」で、nummulariaは「コイン形の」で、葉の形による。
シラヒゲソウ属(Parnassia)には、ウメバチソウ、ヒメウメバチソウなどがある。ウメバチソウは高山の日あたりや山麓の湿地に生える多年生草本で、根生葉は族生し、葉は円形またはじん臓形。夏から秋にかけて数本の花茎を出し、その先に白色の花をつけ、梅の花に似て、5弁で、がく、花弁5、雄しべ5本。花の形が梅鉢の紋に似ているのでウメバチソウという。学名はParnassia palustris L.といい、palustrisは「沼地生の」である。
(東京大学名誉教授)
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