892号(2003年6月25日号)

1面主要記事

■超新星を多数観測

  膨張宇宙解明に期待
  理学系研究科 土居守助教授ら

 理学系研究科の土居守助教授らと国立天文台の共同研究グループは、すばる望遠鏡を用いて地球から40〜70億光年の距離にある超新星を18個発見した。数千億個の星の大集団である銀河の中でも超新星は100年に一度程度しか起きない稀な現象であり、一度の観測でこれだけ多くの超新星が見つかったのは世界初だという。

すばる望遠鏡で撮影された超新星。
1枚の画像に12個の超新星が写っている
 すばる望遠鏡の主焦点カメラは、満月の大きさに該当する30分角の視野を持っている。これに8m鏡の巨大な集光力が加わって、約1時間の観測で一度に数万個の銀河を写すことができる。
 今回の発見は、昨年秋に南のくじら座の方角を撮影してのもの。一枚の写真に12個写っていたほか、周囲の領域を合わせて18個の撮影に成功した。超新星は確率上では数万個の銀河で10個近くが出現することが期待されている。
 現在では年間で300個近くの超新星が観測されているが、わずか6夜の観測でその1割近くに相当する数の超新星が発見された。
 超新星は距離を測定するための光源として用いることができる。今回の観測の目的は宇宙が加速膨張しているかという問題に答えを出すことであり、そのためには宇宙が現在の約半分の大きさの頃(約70億年前)の超新星を観測する必要がある。
 このような超新星はこれまで数例しか報告されていなかったが、今回の発見によりその数が一挙に十数個増えたことになり、今回観測された超新星を継続的に観察することでこの問いに対する答えを出すことができる。


■生命倫理で新コース

  専門家レベルアップ目指す
  医学系研究科

 医学系研究科で来年度から、生命倫理の専門家のレベルアップを目指す養成コースが設置される。
 クローン技術や不妊治療など、生命倫理が問われるテーマは急増しているが、生命倫理に精通する人材は少ない。大学では研究の妥当性を審査する倫理委員会などが設置されているものの、委員の中に研究内容が理解できない人や生命倫理についてよくわかっていない人もおり、十分に議論が深まらないといった問題も起きている。
 新コースでは、医学系研究科の赤林朗教授が代表を務め、法学や哲学を専門とする他の研究科の助教授などを専任講師にあてる。また海外からも外部講師を招く予定。対象は大学などで倫理委員を務めている研究者や生命倫理に関心のある人々で、週1回講義や実験を行う。定員は30人程度。
 欧米では1970年代から生命倫理を教える専門の研究所が設けられ、人材が育成されていたが、日本では本学が初めて。将来的には独立した研究所に発展させることを目指しているという。


■マイクロRNA機能明らかに

  遺伝子の働きを抑制
  工学系研究科 多比良和誠教授ら

 工学系研究科の多比良和誠教授と川崎広明助手らは、ヒトの細胞内にあるマイクロRNA(リボ核酸)が、神経細胞形成にかかわる遺伝子の働きをコントロールしていることを明らかにした。
 RNAは塩基数が数千から数万あり、DNAがたんぱく質を作る際に、遺伝情報を写しとったり、運んだりする役割をしている。一方、マイクロRNAは塩基数が18から25しかなく、どのような働きをしているのか分かっていなかった。最近になって各国で研究が進み、200種類以上のマイクロRNAが見つかったが、ほ乳類で具体的な機能が明らかになったのは今回が初めて。
 多比良教授らは、ヒトのがん細胞株にマイクロRNAを加え、神経幹細胞が神経細胞に分化するのを防ぐ「Hes1」という遺伝子の働きが抑えられることに成功した。また別の人工RNAを使ってマイクロRNAの働きを止めたり、マイクロRNA自体を人工合成して増やして、働きを強めることにも成功した。
 多比良教授は「この手法を応用すれば、神経や筋肉などになる幹細胞を人為的に分化させることができ、再生医療に役立つ」と話している。



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