842号(2001年10月15日号)

主 張

共同で「開かれたアジア」を


 9月11日にアメリカで起こった同時多発テロは、アメリカだけでなく世界中を大きく震え上がらせた。世界貿易センタービルに民間機が激突し、そしてビルが崩れる光景はなかなか現実のものとは受け入れられなかったに相違ない。
 このようなテロ行為は断じて許されるべきものではなく、ブッシュ米大統領も演説で述べたように、テロ組織とは断固として戦うべきであるということは言うまでもない。

戦う相手はイスラム教徒ではない

 20世紀後半の米ソ冷戦構造は終焉を迎えた。しかし未だに世界各地で民族紛争が起こっている。冷戦は民主主義と共産主義という二つのイデオロギーの対立だったが、民族紛争は宗教的な対立がその背景にある場合が多いだけにさらに根深い。今回のテロも、一部の過激派の犯行とはいえ、その根にはイスラム教とユダヤ・キリスト教との聖地エルサレムを巡る問題がある。それだけに、アメリカが対応を誤れば第三次世界大戦とでも言うべき世界戦争にまで発展しかねないのが現在の情勢である。
 事件直後、アメリカではテロリストとは直接関係のないイスラム教徒やアラブ系の人々が迫害を受ける事態が起こったが、このような行動は望ましいものではない。むしろイスラム社会の反感を買い、さらに問題がこじれるだけである。
 このような事態を受けて、ブッシュ大統領は「敵はイスラム教徒ではなく、テロリストである」という旨の演説を行った。また、先日アフガニスタンに対し空爆が行われたが、その際にも標的がタリバンの軍事施設とテロ組織のキャンプなどに限定されたものであることを強調した。このような姿勢は、イスラム社会との無用な争いを避けようとするもので、好ましいことといえる。
 世界には多くの思想・宗教があるが、それらの中で無作為に攻撃を行うテロリストを支持するものは皆無といってもいいだろう。もちろんほとんどのイスラム教徒にとっても今回のテロ行為は容認できるものではないに違いない。アメリカには今後も、テロリストに対しては断固とした対決姿勢を見せながらも、さらに大きな戦いを引き起こさないよう慎重な対応を望みたい。

「知る」ことが真の友好の第一歩

 さて、今回の特集は「韓国特集」である。日本と韓国との関係を考えてみたとき、近年、特に文化面において交流が進展してきたことは事実である。しかし同時に、歴史教科書問題や靖国参拝問題など、新たな摩擦が生じてきていることも無視できない。これらの問題をきっかけに再び反日、反韓運動の起こりそうな兆しもあったが、このような時こそ感情に流された行動を取らずに、共に理解し合えるよう努力すべきである。
 実際、これらの問題の背景には、お互いの文化背景についての理解が不足しているという現実がある。歴史教科書問題にしても、国定教科書を用いる韓国と、指導要領の範囲で多種多様な教科書が生まれ得る日本の制度上の違いすら、十分認識されていたとは言い難い。まして靖国問題では、「どんな人であれ死ねば仏になる」という信仰観の強い日本と、「悪人は死んでも墓を掘り起こして死体に鞭打っても構わない」と一般に考えられている韓国との間では、すれ違いが生じるのも無理はない。日本側が「戦没者(国のために貢献しようとした人)を慰霊する」と言っても、韓国から見れば「悪人(他の国を侵略しようとした人々と韓国人には映っている)を慰霊する」という行為そのものが信じられないものなのである。
 このような背景の違いについては双方の国民にほとんど知られておらず、その上でそれぞれの立場を主張しても平行線をたどるだけである。これらの問題の背景を伝えるべきマスコミは十分に機能せず、それどころかさらに日韓関係をこじれさせようとするかのような報道が一部マスコミでなされたのは残念なことである。これらのマスコミには「第四権力」としての自覚と自戒を促したい。
 真の友好関係はお互いを「知る」ところから始まる。上述の問題は確かに外交関係を左右するものではあるが、別の側面から見ればお互いの考え方の違いを知るいい機会であったとも言えよう。背景を異にする二国が友好関係を結ぶ過程では、さまざまな問題に直面するのは避けられない。むしろ問題はそれをいかに乗り越えるかである。もしそこで双方が自国の立場や慣習に固執し続けるなら、そこには対立が続くだけである。しかし、もしお互いの違いを認識して相手の立場に思いを馳せることができたならば、そこからは歩み寄りが可能となり、真の友好への第一歩ともなるだろう。折りしも、来年はサッカーワールドカップが開催され、それに合わせるかのように日韓交流の気運が高まっている。この機会にお互いをよく知り、これをきっかけとしてよりよい日韓関係を築いていきたいものだ。
 最初に述べたように、世界に目を向ければ未だ多くの紛争が起こっている。しかしもし日本と韓国との間で真の友好関係を築くことができるなら、今度は文化の違いを乗り越えた日本と韓国が、世界の友好を取り持つパイプ役となり、真の意味で21世紀を「東アジアの時代」としていくことができるだろう。そのような世界的かつ歴史的要請が今の時代に課せられていることを自覚しつつ、開かれたアジアを現実のものとしていくための地道な努力をこれからも重ねていきたい。

 (K.T)


■主 張

 豊かな人間性育む環境を
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  第878号(2002年12月25日号)

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  第850号(2002年1月15日号)

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  第849号(2001年12月25日号)

 共同で「開かれたアジア」を
  第842号(2001年10月15日号)

 大学改革に活発な議論を
  第836号(2001年7月15日号)

 新入生へのアドバイス
  第828号(2001年4月15日号)

 年頭所感
  第821号(2001年1月15日号)


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 第853号(2月25日号)
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