828号(2001年4月15日号)

副学長インタビュー

教養学部で専攻見極めよ

 新入生歓迎special interview

  小間 篤 副学長

 新入生の皆さん、入学おめでとう。新しく本学に入学した皆さんを歓迎する意味で、今回はこの4月に本学副学長になられた小間篤先生に、これからの本学のあり方や学生時代の思い出、東大生へのメッセージなどを聞いた。このメッセージをこれからの学生生活の励みにしてもらえたらと思う。

小間 篤 副学長

 ――これからの東大のあるべき姿について先生のビジョンをお聞かせ下さい。

 一昔前は、東大に入ったという矜持、自信をほとんどの学生が持っていました。しかしこの20年ぐらいで、確かにベストの大学ではあるけれども、かけ離れていい大学に入ったという認識が見えなくなってきたように思います。ですから教官も、学生が東大に入ってすばらしいと感じることができる、自信の裏づけが取れるような教育のプログラムを作らなくてはいけません。また、学生にとっても、成績がいいから東大に入らなくてはもったいないという発想ではなく、こういうことをやりたいからベストの教育が受けられる東大に行きたいと思われるような、そういう大学に変えていかなくてはいけないと思っています。
 東大のいいところの一つは、教養学部があることです。専門を選ぶ上で1年半の余裕をもたせ、自分が何に向いているかということが分かった上で進学できるシステムになっています。この東大の利点を100%生かして、自分に一番向いている分野を選んで下さい。そうでなければ長続きもしませんし、将来も伸びません。
 これだけ学問が深化してきますと、専門もどんどん狭く深くという方向に細分化していきます。今は専門家に幅広い視野が求められる時代に入ってきました。物質科学における環境や人間とのかかわりや、先端のバイオ技術を利用するに際しての倫理問題について、理系の人間も十分考えなければならない時代になってきたのです。東大は全人格的教育を一つの柱として、戦後すぐに教養学部ができたという経緯があるので、横への広がりをもった教育の中で専門を深めていくというのが基本的な姿勢でもありました。そのためには、単に知識があるという以上に、広い興味を持っているということが大切です。この姿勢があれば、専門が深くなっても常に横を見る余裕が出てくるからです。この姿勢を身につけることができることが、教養学部のもう一つの長所なのです。
 学生諸君には、教養の1年半の間で自分に合った専攻をよくよく見極めて頂きたい。決して点数に惑わされないで下さい。自分が面白ければどんどん勉強するし、そうすれば世界の中で有数の仕事をしているという自信も沸いてくるからますます面白くなるというポジティブなフィードバックがかかってきます。ぜひこのフィードバックがかかるようなループに入ってほしいと思います。それができるのが東京大学なのですから。

 ――それらのビジョンに対し、これからどのように取り組んでいきたいと思われますか。

 近々大学法人化をひかえています。法人化が決定したわけではないのですが、世の中にその動きがある以上、これにどう対応するかについてはこの2年間、インテンシブに議論されてきました。東大は、先ほど述べたような東大としての特長をより伸ばす方向で、魅力のある大学にしていかなくてはなりません。
 今、大学全体としては、法人化するときの制度がどうあるべきかについて考えていく動きと、東大の理念、基本姿勢を憲章にまとめようとする動きとがあります。憲章については検討の素材を提供して、できるかぎり学生諸君等の意見も踏まえたものをまとめていく予定です。高校生にも読んでもらって、それに納得した上で自分はぜひ東大で教育を受けたいと思われるような、そういう憲章を作っていきたいと考えています。
 研究面で東大が世界的レベルにあるということを裏づけるために、「ウェブ・オブ・サイエンス」という自然科学全体をカバーしたデータベースを使って調べてみました。その論文数のランキングを取ってみると、医学系を含めれば、ハーバード大についで世界第2位、含めなければ世界のトップは東大となるのです。これは胸をはっていいでしょう。
 東大は10の学部・14の研究科・学環に加え、研究所があることが大きな特長になっており、これらの複合した研究組織が有機的に結びついて東大のアクティビティを保っています。新しい東大についてもぜひこの特長を伸ばしていきたいと考えておりまして、これも憲章の中に盛り込むことになっています。

 ――副学長は何人かいると聞きましたが、その中における先生の役割はどんなことでしょうか。

 3月31日までは、副学長は理系文系それぞれから一人ずつの計二人でした。しかし、新しくできた情報公開法への対応や世界の大学との国際交流の活性化、また法人化を見据えたホームページや広報活動の充実など、多くの活動に力を入れていくために、佐々木新総長がこの4月から第3の副学長を入れることを希望されました。ただし、副学長というポストは予算を伴うものなので、決まるのは最短で来年四月になります。したがって、それまでは総長特別補佐という立場で広渡先生が担当されることになりました。
 私が担当するのは教育・研究に関することです。教養課程があるのはいいことなのですが、そのため専門の教育が2年半しかなくなってしまいます。そのため、3、4年生で詰め込み学習をしなくてはいけないのが現状です。これはどうかということで、もう少し専門を教養前期からも学べるようにしたいというのが私の考えです。また逆に専門課程でも教養の科目が取れてもいいかも知れません。横の広がりのある人材が社会的に求められているという意味でも、必要なことでしょう。教養から専門までの教育課程全般の見直しの議論を始めていくことは総長の強い希望で、大学は教育をすることが基本ですから、そちらに目を向けた検討をしていきたいと考えています。
 同時に世界のトップレベルの研究機関として、研究の充実も図っていきます。これは法人化に対する備えであり、大学間競争の激化等に備え、東大のアクティビティをいろんな面で充実させていかなければなりません。この佐々木新体制では、執行部からこれに取り組んでいくつもりです。
 また、入試科目についての検討も必要かと思っています。例えば、点をとりやすいからといって、理Vで物理・化学を選択し、生物を受験しない学生がいますが、ぜひ取ってもらえるよう工夫したいです。私の世代は理科も社会も二科目受験しました。「ゆとり教育」の名のもとに、大学入試も私立を中心にどんどん科目数を減らしてきたのですが、それに対する反省があります。科目数を減らしたからといって、試験がやさしくなるわけではありません。逆にたった二科目だけでは、いかなる専門家になるにしても足りないのではないでしょうか。東大の入試も科目数を含め、もう少しやり方を考えていきたい、そういう入試体制についての議論があります。

 ――先生の学生時代の思い出を聞かせて下さい。

 私は要所要所で大きな社会的変動にぶつかる世代でした。1960年に理Tに入学しましたが、ちょうど60年安保の年で、4月から6月まで授業がなかったのです。代わりにクラス討論があって、全員で毎日国会までデモに行っていました。
 進路については、工学か理学かでずいぶん悩みました。基礎科学に興味があり、早く世の役にも立ちたいということで、両方をバランスさせるところとして選んだのが工学部物理工学科でした。
 博士課程の2年で助手になり、その途中で、IBMの研究所の江崎玲於奈博士が最初の博士研究員をとることになりました。そして私が選ばれ、研究所に行くことになったのです。そこでは分子線エピタキシーの研究をしました。新しい仕事が面白くできた幸せな1年半だったと思います。
 大学に戻り、今度は筑波大学が新しい工学部を立ち上げたということで助教授として呼ばれました。助手もいなくて教育も研究もすべて一人でやりました。7年目に東大理学部の無機化学の教授になってほしいという突然の依頼を受けました。今から14年前のことです。そして理学部長になり、今に至ります。
 全く違う分野に行くことは、非常に視野が広がりますのでお勧めします。皆さんにも幅広く自分の可能性を広めていってほしいと思います。
 学生時代には予想もしなかった道を歩みましたが、その時々に一生懸命やったことは次のプラスになっていると実感しています。外国に出てそこから日本全体を見るという経験も、世界的視野で自分の研究がどういう位置付けにあるか実感できて良いと思います。そこにおいて自分の研究が認められると自信になりますし、意欲もわいてきます。ぜひいろんなことを経験してください。東大の学生だったら絶対やれますから。

 ――最後に新入生に対してメッセージをお願いします。

 特に理系の諸君に言いたいのですが、これだけサイエンスや技術が進んでくると、自分のやる新しい面白いことがないんじゃないかという気持ちになるかも知れませんが、決してそんなことはありません。分かったつもりでいても自然はまだまだ奥深く、いろんな面をもっているものです。自分のやるべきことがたくさんあると確信して新しいことにチャレンジして下さい。20世紀初頭に量子力学が出てきたように、21世紀にも必ず新しい大きなステップが出てくるでしょう。新しいステップが訪れることは歴史が物語っています。何十年かに一度、必ず自然科学全体で現れる、新しいステップを経験する世代が今なのです。君達はむしろ、このステップに立ち会えるうらやましい世代です。それを信じてがんばってほしいと思います。


学部長から
贈る言葉


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