830号(2001年5月5日号)

学部長インタビュー

理学部長 佐藤 勝彦 教授

世界のメカニズムを解明

 ――理学部の簡単な紹介をお願いします。

 理学部には数学、情報科学、物理学、天文学、地球惑星物理学、化学、生物化学、生物学、地学の9つの学科があります。数学や情報といった、自然科学の中で横糸となるような基本的なものと、天文や地球などマクロ的なものから、生命、遺伝子、そして素粒子等ミクロの世界まで、私たちの住むこの世界の全てを理解しようとすることが理学部の立場です。理学部とは私たちの住んでいるこの世界がどのような構造を持ち、どのようなメカニズムで運動しているのか、またこの世界はどのように形成されてきたのかを明らかにするところだと言えるでしょう。例えばこの世界には、さまざまな運動のルール、変化のルールがあるとお思いかもしれませんが、実はこの世界は基本的には物理学の4つの法則に基づいているのです。そういった原理を調べていくと、相対論などは実に単純な原理に基づいてできていて、それは実に綺麗で美しい法則であるということがわかります。このように自然界の謎を解くことで、この世界を帰一しているより深い真理が求まります。理学部に来れば自然法則の美しさがわかってもらえると思います。
 20世紀、科学は飛躍的な進歩を遂げました。我々の知っている知識のおよそ99%は20世紀にできたといってもいいくらいです。物理学で言えば、量子論と相対性理論という2つが柱となって、物理学の体系の基礎をつくりました。その物理学を基礎にして、DNAの螺旋構造も出来上がってきました。そのようにして自然科学の研究は20世紀に爆発的に進みました。そして、その研究は21世紀に入った今も続いています。
 私たちが世界を知れば知るほど、フロンティア部分も広がっていきます。我々が何を知らなかったかがわかるようになり、それに伴い、新しい謎もどんどん増えてきています。今まで疑問にも思わなかったことが疑問であるとわかるようになることも重要であると思います。
 しかしそういった自然界の謎をより深く理解することで、私たち自身がどんな存在であるかもよりわかってくるでしょう。それは私たちの明日の生活に直接には役に立ちませんが、私たちが人生観、世界観を持つ上で非常に大事な基盤になるものです。人とはどういった存在かを知ろうとすれば、この自然界がどのような成り立ちになっているかを知ることは非常に大事なことだと思います。

科学技術の基礎を研究する

 ――他の工学・医学・薬学・農学部とはどういった関わりがありますか?

 理学部は自然界に成り立つ基本的な法則や構造の原理的な部分を正しく知ることを目的としています。あらゆる科学技術の基礎をわれわれは勉強し、研究しています。その基礎的な研究の中で、しばしば応用につながることもあり、工学部、医学部、薬学部、農学部の先生方と共同で研究することもあるでしょう。もちろん理学部の目的は応用ではないけれど、応用との関係の距離が実に近くなっていることは確かなのです。それゆえ私たち理学部は、研究によって明らかにされた自然世界の成り立ち、起源などの情報を広く国民に伝え、それを発信することも重要なのです。現在、具体的に役に立つようなことは、CASTI(先端科学インキュベイションセンター)を通じて、発信していきたいと考えています。

研究の情報発信を重要視

 ――最近の理学部の動きを教えてください。

 最近、重要なこととして考えているのは、理学系研究科からの研究の情報発信です。理学部では非常に面白い研究をしています。しかし、10〜20年くらい前は、面白い研究の成果を国民に伝えるために本でも書こうとすると、そんな暇があるなら研究しろというような雰囲気がありました。自分の研究の宣伝をすることは、以前なら研究者としてはマイナスの評価にしかならなかったのです。
 しかし、今は発想の転換をしなければなりません。やはり大学の研究は、国の貴重な財政、国民の税金によるものであるので、積極的に研究内容を発信していく責任があると思います。そのため、先生方の貴重な研究の時間を割いて申し訳ないという思いもありますが、研究の面白さを伝える一般向けの解説書など書く努力をしていただきたいと思っています。また、ホームページの充実も目指していかなければなりません。今のところ正直いって、決して満足できるものではないけれど、それを通じて、研究内容の面白さを伝えていくことを進めていきたいと思います。これは半年、1年のスケールでやっていかねばならないことですが、少なくとも日本の理学部の中では一番優れたホームページを作っていきたいと考えています。
 また学生の教育に関しては、理学部はあくまでもこの自然世界をよく認識した人を育てていきたいと思っております。専門分野だけではなく、周辺の広い知識を持ち、理学部ならではの独創的な発想ができ、企業に入ってもリーダーシップを取れる人材。そういった専門以外の分野でも力を出せるような卒業生を輩出できるよう、今まで以上に努力したいと思っています。理学部を卒業する学生の大学の教員等になる割合は他学部より大きいのですが、大半は社会で直接役に立つような企業に行くのだから、理学部で学んだ基礎的なことをそこで活用できるような人材を輩出できるように努力していきたいと思っています。

文系理系にとらわれない勉強を

 ――これから1年半を教養学部で過ごす新入生に、メッセージを一言お願いします。

 教養学部では、理系に進む人はぜひ人文社会系を広く勉強し、文系に進む人は理科系のことをしっかり学んでほしいと思います。文系の人に、理系のことを学んでほしいというのは、我々が住んでいるこの世界が一体どういった構造をして、どのように動き、そしてその中で人間というのはどういった存在であるのかを知ったうえで、人の生き方や倫理、法律、社会のあり方などを議論してほしいからです。そういったことを抜きにした議論は、不完全なものにしかならないと思うのです。
 また、理科系に進む人に関しては、学部に進むと専門分野のために多くの時間を割くようになるので、広く社会のあり方や人の生き方を学んだり、考えたりする機会が少なくなってしまうからです。やはり大学の1、2年という時期は、自分の生き方などについて悩むときだと思います。その中で哲学や倫理、人の生き方に関しての広い視野を養うことが後に非常に役立つと思います。特に将来、自分の研究内容が、実際に人の生活の役に立つようになるとすれば、それは逆にいえば、それが人の生活を脅かす可能性もあるということです。その時に社会や人間のあり方などを考えることができなければ、科学自身が人類を不幸へ導いてしまうことになるかもしれません。そのためにも、倫理的な問題はどうしても駒場時代にしっかりと学び、考えてほしいと思います。自分の人生を豊かにしようと思うならば、理科系の人は人文系、文科系の人は理科系の勉強をしっかりとしてほしいと思います。


学部長から
贈る言葉


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