873号(2002年11月5日号)

1面主要記事

■反水素を大量合成

基礎物理学の進展に期待
理学系研究科・早野教授ら

 本学理学系研究科の早野龍五教授らの研究グループは、欧州合同原子核研究所(CERN)で、低速の反陽子と陽電子を反応させ、「反水素原子」を大量に合成することに成功した。反物質は現実の世界にはほとんど存在しないが、素粒子や宇宙論といった基礎物理学では、反物質の研究は重要課題の一つとされている。今回大量の反水素合成に成功したことで、今後の反物質研究の大きな発展が期待される。

 反物質は物質と同じ質量で反対の電荷を持つもので、その存在は1920年にイギリスの物理学者ディラックによって予言され、32年には実験で確認された。反水素は、マイナスの電荷をもつ反陽子とプラスの電荷をもつ陽電子という二つの反粒子で構成されている。物理学を支える多くの理論が水素の精密観測から生まれているように、反物質の研究には大量の反水素原子が必要とされている。
 反水素の合成は、1996年にドイツやイタリアなどのグループが世界で初めて成功したが、その時は10個ほどを合成したにとどまり、また存在した時間も1億分の1秒程度と短かった。
 反水素の大量合成のためには、金属の板に高速の陽子をぶつけることで取り出せる反陽子のスピードを緩め、一カ所に集めることが重要だが、早野教授らの研究グループは、CERNの反陽子減速器を用い、反陽子を極低温状態で反応容器内に閉じ込めることに成功した。そこにナトリウムから取り出した陽電子を加えたところ、5万個程度の反水素ができたことが確認された。また反水素の存在した時間もドイツやイタリアなどの研究グループに比べ一万倍程度長かった。早野教授は「生成条件を最適化することで合成される反水素の数を増やすことも可能だ」としている。
 反物質の研究は、物質と反物質の対称性といった素粒子論の重要課題であるばかりでなく、なぜ宇宙には物質しか存在しないのかといった宇宙論の研究にもつながる。今回の成果は反物質研究の進展だけでなく、今後反物質を扱うために開発される技術が物質研究に役立つことも期待される。


■2人目の授賞者決まる

 東京大学名誉博士号

 本学は、プリンストン大学教授のフィリップ・ウォレン・アンダーソン博士に名誉博士の称号を授与することを決定した。本学は昨年12月に、学術文化や本学の教育研究の発展に特に顕著な貢献のあった人に対し「東京大学名誉博士」の称号を授与する制度を創設したが、同氏はこの制度による二人目の名誉博士となる。
 アンダーソン氏は物性物理学の世界的権威の一人であり、1977年にはノーベル物理学賞を受賞している。53年から54年にかけてフルブライト交換学者として本学理学部に滞在、教鞭をとったこともある。同氏の業績が物性物理学研究の発展に大きな影響を与えたことが評価され今回の名誉博士号の授与が決定された。授与式ならびに記念講演会は12月10日に行われる予定。


■昆虫に細菌が転移

 人が取り込む可能性も

 本学総合文化研究科と産業技術総合研究所の共同研究チームは、昆虫のゲノムの中に共生細菌の大きなゲノムの断片が入り込んでいることを発見した。細菌間では種の壁を越えて転移が起きていることはこれまでも確認されていたが、単細胞生物である細菌から多細胞生物である昆虫への転移が自然界で起きたことが確認されたのは今回が初めて。
 総合文化研究科の大学院生今藤夏子さんと産総研生物機能工学研究部門の深津武馬主任研究員らの研究チームは、小豆の害虫であるアズキゾウムシのX染色体上に、多くの昆虫の細胞の中に生息する共生細菌のボルバキアのゲノム断片が入り込んでいることを確認した。国内各地のアズキゾウムシを調べた結果、ほとんどに転移が見られたという。
 この結果は、人を含む高等生物も環境中の微生物などから遺伝子を取り込む可能性を示唆しており、この遺伝子の働きや転移のメカニズムを解明すれば、遺伝子組み換え生物の安全性を評価する際に役立つと期待される。


■柏キャンパス一般公開を開催

 柏キャンパスの一般公開が1日と2日に行われた。趣向を凝らした実験の数々で、科学の祭典といった雰囲気に、会場は親子連れで賑わった。(2面に関連記事)


■キャンパス情報

★第4回東京大学公開学術講演会「設計の思想―組織と空間を考える―」
▽日時 12月13日(金)17時開場、18時開演
▽会場 安田講堂
▽定員 800名(先着順)
▽講演
「日本経済の今後と設計思想―アーキテクチャ論で見る企業の実力」
  経済学研究科 藤本隆宏教授
「循環型社会」
  工学系研究科 安藤忠雄教授


■本学のES細胞研究を承認
 文部科学省は10月29日、本学医科学研究所が申請していたヒトの胚性幹細胞(ES細胞)から人体の組織を作る研究計画を、同省の指針を満たしているとして承認した。ES細胞の利用が認められた研究はこれで計4件となった。

■医学部に遺伝子工学の寄付講座
 本学医学部は1日、三共による寄付講座「発生・医療工学」を開設した。この講座では、特定の遺伝子を動物に欠損・付与させる手法などを用いて「モデル動物による新遺伝子改変法」の開発などを目指す。担当教官は鈴木宏志客員教授で、期間は5年間。

■仁科記念賞に理学系研究科・樽茶教授
 物理学の分野で優れた成果を収めた研究者に贈られる仁科記念賞の今年度受賞者に、本学理学系研究科の樽茶清悟教授が選ばれた。今回受賞の対象となった研究は「人工原子―分子の実現」で、樽茶教授は、半導体を高精度に加工して、2個の人工原子からなる人工分子を作成し、その中でフント則やパウリの排他律などが成り立っていることを観測、基本則の一般性を確認した。

■六大学野球、最下位脱出ならず
 東京六大学野球秋季リーグ戦第七週の対戦で、東大は明大に連敗し、今季の最下位が決まった。第2週に立大に勝ち越し8季ぶりの勝ち点を挙げたが、勝ち点1で並んだ慶大に勝率で及ばず、10季ぶりの最下位脱出はならなかった。



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