◆先端科学技術研究センター編◆
南谷 崇 教授 インタビュー
先端科学技術研究センターは1987年、先端的科学技術分野における萌芽的、先導的研究と、大学システム改革への果敢な挑戦を使命として設立された。以来15年間、先端研は日本の国際競争力と成長力の源泉たるべき先端的科学技術の研究を推進し、その成果を社会に還元するため、文理融合型の研究や産学連携を行い、大学のあるべき姿を打ち出してきた。そして新世紀を迎え、先端研は新たなチャレンジをスタートしている。今回は先端研の南谷崇センター長に、今後の先端研の活動方針とその具対的取り組みなどを聞いた。
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――先端研設立の目的、経緯などについて教えてください。
先端研は1987年に設立され、今年で15年目になります。当時、大学の研究システムは講座や部局ごとに分かれているなど硬直しているとの批判があり、このようなシステムをもっと活性化しようという趣旨でこの先端研が設立されました。現在、今までの枠組みを越えた新しい分野の研究が必要となっており、そのような研究を行うためには新しいシステムを構築する必要があります。そのため先端研では、既存の枠組みを越えた研究を行うと同時に、従来の研究システムを越えた新しい大学システムの提案も行っています。
先端研は設立以来、学際性、流動性、国際性、公開性という四つのモットーを掲げてきました。
学際性というのは、既存の学問領域を越えた新しい領域を開拓するということです。ここは文理融合の研究所であり、物質デバイス、情報システム、生命といった理系に関するものから、研究戦略、社会システムや知的財産権など文系に関わるものまで扱っています。また理系の中でも生命と情報が一緒になって研究を進めたりもしています。
この研究所の教官の任期は10年です。10年で専門分野の研究を終えたら、新しい人を招聘して別の研究を行います。10年あれば何らかの研究成果は出るはずですし、また10年もすれば先端分野も変わっているはずです。今まで研究を行っていた教官がそのまま別の研究を行うのではなく、別のテーマを設定したら、その分野に最適な人材を招聘して研究を行ってもらいます。これが流動性です。
今では多くの大学で行っていることですが、企業からの寄付を得て客員教授を招き、新しい講座を作るという寄付講座を一番初めに行ったのは先端研です。この寄付講座にはこれまで100人以上の著名な研究者が世界各国から招聘されているほか、先端研の各研究分野ではそれぞれ国際的な研究協力が進められています。
このようにして得られた研究成果は、学会などで単に論文の形で発表するだけでなく、広く社会に還元していくことが必要です。そのため先端研では、産学連携を進めるなど、学内外に広く研究成果を公開してきました。
――そのような理念を実現するために、現在どのような組織形態で運営を行っているのですか。
先端研が設立されて14年になるわけですが、教官の任期が10年なので、多くの分野で改組が行われ、新たな教授が着任しました。今までは初期の形態で走ってきたのですが、今、大きな転換期にさしかかっていると思います。今年から5カ年計画で組織改革を行っており、前述の理念をさらに進め、大学の研究成果をより広く社会に向けることができる組織を目指しています。
研究そのものも、学際性をさらに進めるために、プロジェクトという形で、いろいろな分野の研究者の専門知識を融合した新しい分野での研究を進めています。
また組織という点では、六本木にオフキャンパス拠点となる研究組織「テクノロジービジネスセンター」を設立しました。ここでは大学の研究成果を、社会に還元することを目的に、企業との連携や共同研究を進めています。また学外にこのような研究組織を作ることで、社会と大学との接点となることを目指しています。
しかし、大学の研究成果をそのままの形で企業に応用できるわけではありません。ある原理を発見しても、それを実用化するための研究が必要ですし、それを産業として成り立たせるためには量産化する必要もあるわけで、そのための研究も必要になるのです。これらは大学の研究室だけではできないことです。しかし企業は企業で、今日明日のための仕事をする必要があり、この大学と企業のギャップをいかに埋めるかといったことが大きな問題となっています。テクノロジービジネスセンターでは、研究成果を育て、ビジネスを起こすといったインキュベーション機能も果たしています。
さらに産学連携といっても、特に理系の研究者はマーケティングやコンサルタントといったビジネスに関しては疎い場合が多いわけです。また実際にビジネスを起こすとなると研究者と起業家といった異なる二つの立場を持つことになり、コンフリクトを起こすことにもなりかねません。このような問題を解決するために、起業するための人材育成も行っています。
また産学連携それ自体が一研究分野でもあります。産学連携はこれまでほとんど行われてこなかったことであり、利益相反の問題や制度上の問題など、連携を進める上でのさまざまな課題についても研究しています。
――現在、先端研が抱えている問題は何ですか。
現在の一番の問題は、国立大学の法人化に関することです。先端研では、科学技術のあるべきシステムを提案していくために今年度から5カ年計画で組織改革を進めているわけですが、法人化によって大学の設置形態が大きく変わってしまうこともあるわけです。もちろん国立大学の法人化も、大学のあるべき姿の追求のために行われているのですが、現在我々が行おうとしていることは現行法の枠組みの中で行う必要があるため、今はこれが大きな問題となっています。
先端研自体が抱えている課題もあります。先端研は文理融合の研究組織で、さまざまな分野の研究者がいるのですが、医学なら医科研、情報分野なら今年できた情報理工学系研究科といった具合に専門分野別の研究科や研究所などが既に存在しているわけなんです。先端研は多くの分野の人が集まっているのですが、全体としてはそれほど多くの人がいるわけではありません。そういった意味で、他の研究所とは異なった立場にあるわけです。このような中で先端研としてのアイデンティティをどのように確立していくべきかということが課題です。
――先端研は駒場リサーチキャンパスにあるわけですが、同じく駒場にある教養学部とはどういった関わりがあるのでしょうか。
教養学部で総合科目の講義を担当しているのですが、その中の一つとして、先端研では今年度からUROP(undergraduate research oppotunity program)というのを始めました。これは学部生に研究の体験をしてもらおうというもので、教養学部の学生がさまざまな研究室に分散して研究の体験を行っています。今年度は20人ぐらいの学生が参加しました。
駒場時代は自分のすべきことがわかりにくく、どちらかというとだらけやすい傾向にあります。しかし早くから研究の現場を知ってもらうことにより、何を、なぜ勉強すべきなのかといったモチベーションが与えられるので、勉強しやすくなるのではないかと思います。
現在、教養学部改革が進められ、文系・理系融合型の新しい枠組みを創設しようという動きがありますが、本来は文T、理Tなどといった枠組みはない方がいいと思います。現在研究分野は学際化してきており、文系・理系といった枠組みでは捉えきれないような研究分野も増えてきています。実際、先端研で、今行っているバリアフリーの研究一つをとってみても、生命や情報から人文系の内容に至るまで多くの要素が絡んでくるわけです。そのような問題に対応するためにも、駒場時代には幅広い勉強をしてほしいと思います。
――最後に、学生へのメッセージをお願いします。
よく言われることなんですが、チャレンジをしてほしいと思います。今でも、大学を卒業したら大企業に就職したいと考える人が多いのですが、今は大企業も経営難などのさまざまな問題に直面しているわけです。
現在ベンチャー企業を起こそうとしている人が増えていますが、そのようなことができるチャンスは学生時代にあります。学生なら失敗しても大丈夫ですが、年をとってからだとそういうわけにもいきません。寄らば大樹の陰ではなく、いろいろなことにチャレンジをしてほしいと思います。
あと、どちらかというと理系の学生に多い傾向かもしれませんが、自分の殻に閉じこもる学生が増えてきているというのも問題だと思います。「個」の生活を守るということなのかもしれませんが、もっと社会的なことにも目を向けてほしいと思います。
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