875号(2002年11月25日号)

1面主要記事

■展示実験の成果公開

教育プログラム参加者が制作
本学総合研究博物館

 本学総合研究博物館で18日より、特別展「『20世紀の石器時代』展『モノ』は私のフィールド・ノート」が開催されている。この展示は総合研究博物館で毎年行っているリカレント教育プログラムの一環として行われたもので、今回は東京都教育庁の小田静夫氏が南洋諸地域で収集した考古民族学的資料が公開されている。

 総合研究博物館では毎年、全国の博物館等の関係者を対象として、リカレント教育プログラム「学芸員専修コース」を行っており、今回で10回目を迎える。企画展示は博物館関係者の主たる業務の一つであるが、いかに独創的で刺激的な企画ができるか、また効果的な展示のためにどうすればよいか、頭を悩ませている学芸員は少なくない。そこで今回からこのプログラムの中に展示制作が取り上げられることとなった。
 この展示は、専修コースの参加者15人が、アイデアやノウハウについての意見交換をしながら、より魅力的な展示を構築することを目的として共同で製作が進められた。展示の準備期間は5日間、使える材料は館蔵の既存備品のみという厳しい制約の下実施された。今回の展示は、そのような展示実験の成果である。
 小田氏は神津島産黒曜石の交易多南方型旧石器文化に着目し、黒潮海域における先史人の拡散や移動の経路などを長年研究してきた。専門は考古学だが、調査メモなどをまめに取ることよりも「モノ」を集めることに興味があったことも重なり、収集内容自体が「地域メモ」といった意味合いを持っている。今回の展示では、南方分化への研究関心からオセアニア地域の調査を重ね、その地域で先史時代から現代まで受け継がれてきた「文化・伝統」を評価するというコンセプトで、小田氏の収集した石斧、槍、釣り針、絵文字などの原住民が作り用いた、また先住民が残した現在のものとも過去のものとも言えぬ独特な標本が並べられている。
 この展示は12月20日まで、総合研究博物館で開催されている(月曜閉館)。


■「長子口墓」の主特定

 文献登場人物では初
 松丸名誉教授ら

 本学の松丸道雄名誉教授(古文字学)は、中国の研究者と共同で、中国河南省の鹿邑太清宮(ろくゆうたいせいきゅう)で発掘され、「長子口墓」と名付けられた墓が、殷の最後の王・紂王(ちゅうおう)の兄の微子(びし)のものであることを明らかにした。殷から西周初期にかけて、『史記』など文献に登場する人物で墓が特定されたのは初めて。
 発掘は、1997年から98年まで、河南省文物考古研究所と周口市文化局によって行われた。出土青銅器に「長子口」と刻まれた金文が多く墓の命名由来となったが、墓主は不明とされていた。今秋に刊行された『中原文物』の中で、山東省博物館研究員の王恩田氏がこの墓が微子のものではないかと指摘し、松丸名誉教授が現地調査を行った。
 松丸名誉教授は、調査の結果、発掘墓がかつての宋国内で発掘された、発掘青銅器の年代が殷から西周初期にかかっている、墓道を持つ君主クラスの大墓で典型的な殷の貴人墓である、墓主の人骨の鑑定で60歳ぐらいと文献上の微子と一致している、「長子」は「微子」と同一人物であることが『呂氏春秋』に記載されていることなどから、この墓を微子のものだと断定した。
 微子は紂王の庶兄で周時代の諸候の一つ、宋国の始祖。妲己を溺愛し暴政をした紂王をしばしばいさめたが、紂王は聞き入れなかった。紂王没後、殷の祭祀を継いで、殷の遺民を治めた。孔子は「殷の三仁」の一人としている。


■ホウ素運ぶ遺伝子発見

 作物の収量や品質に影響

 大学院農学生命科学研究科の藤原徹助手らは、ホウ素を土壌から葉などに運ぶ遺伝子を発見した。
 ホウ素は植物の生育に欠かせない元素で、不足したり過剰になると作物の収量や品質に大きな影響を与える。中国では土壌中のホウ素不足のため綿花栽培に年間百数十億円の対策費がつぎ込まれている。
 藤原助手らは土壌中のホウ素濃度が低いと生長しない特殊なアブラナ科シロイヌナズナを使って、どの遺伝子が壊れているのか調べた。その結果、このシロイヌナズナの二番染色体にある遺伝子が欠落しているのを発見。この遺伝子がつくるたんぱく質が存在していると細胞内のホウ素濃度が下がった。たんぱく質は、水や養分を根から葉に運ぶ管のそばにある細胞膜上に分布していて、この遺伝子が細胞内から細胞外にホウ素を運び出す役割を担っていると判断できた。


■山崎貞一賞に工学系研究科・長野教授

 実用的効果につながる創造的業績をあげた人に贈られる山崎貞一賞のバイオサイエンステクノロジー分野の今年度受賞者に、工学系研究科の長野哲雄教授が選ばれた。受賞の対象となった研究は「新規生体画像化プローブの開発とその実用化」で、長野教授が取り組んでいる蛍光発光原理の解明に基づく、生体画像化プローブの分子設計、合成、生体組織への応用などが評価された。

■「東京大学稷門賞」創設

 本学の活動の発展に顕著な功績があった人を表彰する「東京大学稷門賞」が創設された。この賞は、私財の寄付、ボランティア活動、援助などにより本学の活動の発展に大きく貢献した個人・法人・団体に対し贈られるもので、各部局長の推薦を元に選考委員会が開かれ決定される。



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