890号(2003年5月25日号)

1面主要記事

■新たんぱく質開発へ

合成酵素の立体構造解明
理学系研究科 坂本健作助手ら

 理学系研究科の坂本健作助手らの研究グループは、理化学研究所と共同で、自然には存在しない新しいたんぱく質を合成する鍵となる合成酵素の立体構造を解明した。この合成酵素の構造情報を用いることで、ダイオキシンを分解する酵素やがん特効薬など、さまざまな機能を持つたんぱく質の開発が可能になるという。

 今年1月に、米カリフォルニア大学のグループが、合成酵素の一種であるチロシル転移RNA合成酵素(TyrRS)を普通の大腸菌に組み込むことで、アミノ酸をたんぱく質に取り込む新しい細菌を作り出すことに成功した。原理的にはこの方法であらゆるアミノ酸をたんぱく質の材料として取り込ませることが可能だが、これまでにないアミノ酸を転移RNAに結合させるTyrRSを作ることは、TyrRSの原子構造が決定されていないために困難であった。
 坂村助手らのグループは、この細菌の作製に用いられたTyrRSと転移RNA、およびアミノ酸の一種であるチロシンとの複合体の立体構造を、大型放射光施設Spring8を用いて観測した。その結果、TyrRSがアミノ酸を深いポケットで識別していることがわかった。また、特定の転移RNAだけを結合するために、TyrRSが転移RNAの塩基を原子レベルで緻密に認識する様子も明らかになった。観測された原子構造をもとに、TyrRSのアミノ酸結合ポケットを人工的にデザインしたところ、新しいアミノ酸や転移RNAを強く認識させることにも成功した。
 TyrRSの原子構造が明らかになったことで、あらゆる新しいアミノ酸をたんぱく質の材料として用いることができることにつながり、ダイオキシンなどの有害物質の分解や医薬品となる有機分子の合成を行う酵素などを組み込んだ「スーパーたんぱく質」の開発に役立つことが期待される。この結果は19日付けのネイチャー・ストラクチャラル・バイオロジーに発表された。


■減数分裂の謎解明

 たんぱく質が情報伝達

 理学系研究科の渡辺嘉典助教授らは、減数分裂の際に重要な役割を果たす染色体接着たんぱく質の機能を解明した。染色体接着たんぱく質とは、染色体分裂において分裂した二つの染色体を一時的につなぎとめるもので、減数分裂においてこのたんぱく質が遺伝情報の伝達に重要な役割を果たすことが明らかにされた。
 細胞の染色体は、遺伝情報(ゲノム)を担う。細胞が通常の分裂を行う際には、保持している遺伝情報を新しく生成される細胞に正確に伝達するため、分裂開始前に染色体を複製するが、複製された染色体は特殊な染色体接着たんぱく質複合体(コヒーシン)によりお互い張り付いた状態になっている。これに対し、精子や卵子などの減数分裂の場合は、複製された染色体の腕と動原体でその接着が解除されるタイミングおよび役割が異なることが古くから知られていたが、その分子メカニズムについてはよく分かっていなかった。
 今回、渡辺助教授らは、減数分裂の時の染色体では、体細胞分裂のときの染色体と異なり、動原体部分とそれ以外の腕の部分でコヒーシンの種類が異なることを明らかにした。また、染色体の腕の部分のコヒーシンは、減数分裂時のゲノム情報の入れ替えにも重要な役割を持ち、動原体部分のコヒーシンは染色体を分けるときの方向を決定する上での中心的や役割を持つことも明らかにされた。
 この成果は、ヒトの精子や卵子を作るときの染色体分配の間違いに起因するダウン症候群などの原因解明につながるものと期待される。


■手術中に医療ミス

 男性患者が死亡
 医学部附属病院

 医学部附属病院で今月下旬、70代の男性に対する大動脈りゅうの手術中に、血管の内壁を傷つけるミスがあり、この男性が死亡していたことがわかった。
 附属病院によると、この手術は9日に、心臓近くにできた大動脈りゅうが破裂しないように血管の内壁を補強する器具を取り付ける手術の最中に起こった。男性医師が器具を患部近くまで移動させた際、器具の先端に取り付けた血管を保護するカバーが外れた。その後も器具の挿入を続けたところ患部近くで出血があり、男性の血圧が急降下した。医師は緊急輸血などを行ったが、男性は翌日に死亡した。
 附属病院では事故調査委員会を設け、調査を開始すると同時に警視庁本富士署に届け出た。本富士署では、業務上過失致死の疑いもあるとみて、男性を司法解剖して詳しい死因を調べている。



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