878号(2002年12月25日号)

主張

東アジア友好に向かって


 まもなく2002年も終わりを迎えようとしている。今年はワールドカップの日韓共同開催や日朝首脳会談など、東アジア情勢に関連したニュースが多く聞かれた年だった。東アジアの国々は確かに「近い」国々であるのだが、しかしこれらの国々が良好な友好関係を維持しているとは言い難い。世界を見れば、ヨーロッパには欧州連合(EU)、南北アメリカ大陸ではNAFTA、メルコスールなどいくつかの自由貿易連合があり、またアフリカではアフリカ連合(AU)が誕生するなど、近隣諸国間での地域統合機構が各地で誕生している。しかし、東アジア地域にはそのような機構がないばかりか、韓国と北朝鮮の間では未だ一触即発の緊張状態が続いているのが現状だ。そこで、このような諸国間関係を我々はどのように捉えるべきなのか、また我々はそのために何をすべきなのかについて考えてみたい。

草の根的交流が国家間の壁打破の鍵

 まず踏まえておくべきは、東アジアの国々は「近くて遠い」国であるということである。地理的に近いことは言うまでもないのだが、その近さを考慮すれば、政治体制や思想面、経済力などについては、むしろ隣同士と思えないほどかけ離れた「遠い」国々なのである。本紙とソウル大学の「大学新聞」が共同で行った学生意識調査(本紙六月十五日号掲載)の結果からは、歴史認識や東アジアの安全保障問題などに関して、東大生とソウル大生との考え方の違いが浮き彫りになった。また日朝首脳会談以後、北朝鮮に関する報道が多くなされるようになったが、それらを通して北朝鮮と日本との違いを如実に感じさせられた人も少なくないだろう。
 これらの国々の間に引き起こされる摩擦に着目した時、文化や思想の違いに対する認識の欠如がその背景にある場合が少なくない。「靖国神社参拝問題」は歴史認識の相違によるところが大きいし、「歴史教科書問題」も、両国の制度の相違に対する認識の欠如がその根本にあるといっても過言ではない。
 東アジア地域の国々では、上述のような問題が発生するたびに感情論が先行し、これが国家関係をいっそう悪化させるケースが少なくない。「日本海」呼称問題では、「日本海の呼称は十九世紀初頭から既に世界的に定着している」とさまざまな資料を用いて主張した日本側に対し、韓国側は「日本海の呼称は日本の植民地主義で定着した」と反論したが、これは資料を無視した感情的な反論であるようにみえる。また北朝鮮による日本人拉致の事実が明確化した後、日本では朝鮮人学校の生徒らに対する嫌がらせが相次いだが、拉致の加害者ではない彼らに対する嫌がらせは正当な理由のない、感情的反発によるものである。
 このような問題に感情で対処するなら、それは相手側の感情的反発を引き起こし、不毛な感情論争が展開されるばかりで対立の溝は少しも埋まらない。問題が発生した時にまず自制し、事実を冷静に直視してみるべきことは、過去の幾多の事例から十分に明らかである。互いの相違を認識し、相手の立場を尊重することは、不要な感情論を排し実質的な問題解決に向かっていく上で第一歩となる。
 「遠い」国々なのだから交流は控えておけばいいとの意見もあるかも知れない。国交がないのだから正式な交渉の手段がないのだとしてきた当該省庁の見解にも、これとよく似た消極的姿勢が見え隠れしていた。しかし、昨今の国際社会で発生している問題の多くが、もはや一国のみの努力で解決し得る範囲を越えていることを考慮すれば、東アジアの国々が共同で諸問題の解決にあたる体制を築くべき時期にきているのは間違いない。現実を見れば国家の体制も異なり、また文化や歴史背景も異なるこの地域に共同体を形成しようとすれば、幾多の困難が付随することは容易に想像がつく。しかし、長い歴史を振り返れば、これらの国々が同じルーツをもっていることは疑う余地がなく、この地域内で今なお共有されている東アジア特有の文化、またこの地域の民族に共通の伝統や習慣も決して少なくないはずだ。その点で、W杯の日韓共催の成功が我々に与えてくれた教訓は大きい。歴史的には相克の多い両国関係であったが、日本が韓国を応援し、韓国が日本を応援する姿は、両国の新しい歴史の幕開けを予感させるものであった。この成功を契機として日本と韓国との間で文化交流が大きく進展したこと、また日朝首脳会談や一昨年の南北首脳会談などに見られるように、国家レベルの交流にも進展の兆しが見られることを考慮すれば、この地域の国家間交流が不可能だとか無意味だとか言い切ることはできない。一スポーツの祭典が契機となって国家間交流が大きく促進されたことを考えれば、過去の国家間の壁を打ち破る鍵は決して一つのみではなく、また政治力だけが頼りになるものでもない。むしろ草の根的な交流活動や学術交流、民間の活力がその突破口となる可能性の方が大きいかも知れないのである。

国家間の友好関係は身の回りから

 日本、韓国、北朝鮮、中国といった国々は、イデオロギーや政治・経済体制、さらには集団安全保障の立場に明確な相違があるだけに、どの二国が友好関係を維持することも決して容易なことではない。しかしこのような相違と相克を抱えたこの地域は、ある意味では世界の縮図であり、世界の諸問題が端的に表れた地域であるといえるのではないだろうか。その意味で、東アジア諸国の関係改善なしに世界平和があるはずがなく、また東アジア地域での関係改善や交流拡大は、全世界の友好の第一歩ともなり得るものである。
 過去を論じるだけでは発展は生まれない。そして国家間の友好関係は、我々の身の回りから築いていくことのできるものであり、また我々の意識によって自ずと変わっていくものであると信じる。そのような視野に立って諸外国を見つめ、大学人として生き、正しい改革のための力を培っていく者でありたい。              (K・T)


■主 張

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