1090号(2010年6月25日号)

主張

イデオロギーから民主党を診る


 鳩山前首相には、期間も短かったが、ともかく自民党から獲得した最初の政権をリードする重役を担った本学OBとして「お疲れ様でした」という言葉を送りたい。だがまずもって、小沢前幹事長とともに、旧政権体質のイメージであった「政治とカネ」の問題を新政権においても脱皮できず、日本の政治に改めて失望色を重ね塗ったことは深く受け止めなければなるまい。

 沖縄普天間基地問題、参議院選前のタイミングなどもあって、昨今鳩山首相辞任、菅新首相就任となったが、これを起点とする日本の政治における根底的な課題の一つは、これまでの不信を拭って余りあるパフォーマンスが必要という意味も込めれば、力のある政治家らが個人的実入りの良さを犠牲に、国民の血税の効果的配分を通じて日本の国家全体の経済活性化への実感をもたらす、そのリーダーシップを発揮できるかどうかであろう。

 昨年の自民党から民主党への政権交代で多くの国民が望んだのは、「政治とカネ」の問題に切り込んで無駄な金をなくし、健全な政治を取り戻すということではなかったか。現在の民主党政権の政策の中で、高い評価を集めているのが行政刷新会議の事業仕分けであることも、そのことを示している。一方、「政治とカネ」を巡る根底的な不信は、逆戻って国民をして鳩山政権末期の内閣低支持率で表れたのだ。

 さて、この問題は国内的なそれとして前置きにしながら、以下では別の角度から、民主党政権≠貫く一層根底的な問題を検証してみたい。新政権に持ち込まれているイデオロギーにおける検証である。これは周辺諸国と関連しながら、日本の安全保障にも大きく関わる、また日本の根底を支える良き伝統・文化を揺るがしかねない重要な視点である。

 第一に、「選択的夫婦別姓」。わが国の家族制度は、婚姻は届け出によって成立し(法律婚)、夫婦の氏(姓)は「夫又は妻の氏を称する」(民法750条)としている。その意図は、結婚を男女の一夫一婦制に基づく法律婚によって家族を保護しようというものである。それゆえ重婚を禁止し(同732条)、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(同752条)とし、守操義務を課している。

 しかし、このような「家庭保護」の考えに真っ向から反対するイデオロギーがある。「自己決定権」をキーワードに、性解放、フリーセックスを主張する文化共産主義である。このイデオロギーは、保守的な伝統的倫理観を破壊して、共産革命へと導くという明確な目的意識を持っているがゆえに、安易に同調することは危険である。「選択的夫婦別姓」の論議は、このようなイデオロギーに与する可能性があると思われる。その動向には十分に注意する必要がある。

 第二に、「子供手当」。所得制限を設けず、中学生以下の子供がいるすべての家庭に一定の金額が支給される制度である。しかし、その代わりに一般扶養控除や配偶者控除が廃止される方向にある。多くの人が、「自民党から民主党への政権交代を印象付けるために、手の込んだ表紙替えを行った、大掛かりなバラマキ政策だ」と言って批判している。

 しかし、このような見方もできる。「扶養控除」や「配偶者控除」といった、「家族によって守られている」という概念を否定し、「国家が社会の子育てに責任を持つ」という概念に移行することによって、家庭の概念を薄めることができる、というものだ。実際のところ、一部の左翼思想家や、ジェンダーフリー思想家が、民主党の子供手当てのもつイデオロギー的な意味合いを絶賛しているという。

 このように見た場合、鳩山政権で迷走した普天間基地移設問題において、「県外・国外」が強行に主張されたことに、何らかのイデオロギー的な政策背景はなかったか、とも勘繰りたくなる。

 実際のところ、中国は2010年までに第一列島線(日本海、東シナ海の海域の制圧)、2020年までに第二列島線(小笠原諸島辺りまでの海域の制圧)、2040年〜2050年までに太平洋を米国と二分、という段階的な軍事制圧という明確な軍事目標を持って、着実な軍事拡張を行っている。だからこそ当然、沖縄が日本の国防の重要な拠点となるのだ。そのような観点から、ギリギリの沖縄負担軽減策を十数年かけて交渉してきたのが、辺野古への移転ではなかったのだろうか?それをいともたやすく「最低でも県外」として始まった一連の迷走劇に、果たして共産主義的イデオロギーの背景や、それを政策化する人々・国々に資する動きはなかったのだろうか?

 このように、自民党から民主党への歴史的な政権交代劇には、単純な「保守からリベラルへの政権の移行」というだけでは表現し難い、深刻なイデオロギーの転換を危惧せざるを得ない側面が見受けられる。菅政権へと移行した現在も、そのようなイデオロギー的な危惧は決して消えていない。今後も果たしてどのような政策に着手していくのか、さまざまな角度から、菅政権の動向に注視する必要があるのだ。

 もうすぐ選挙が近づいている。国家をゆるがすようなイデオロギーの転換に、安易に与するような一票を投じてはならない。日本の未来を憂える国民の思いを代弁してくれる政治家を、じっくりと見極めて一票を投じたいものだ。


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