1089号(2010年5月25日号)

1面主要記事

26学会会長が共同声明

  科技政策改善を提言―小柴ホール

 4月28日、理学部1号館小柴ホールで、26学会(41万人会員)共同シンポジウム「科学・技術による力強い日本の構築」が開催された。科学・技術の発展を担う科学者および学術政策関係者が一同に会し、科学研究・技術開発に対してわが国が取り組むべき課題、日本の現状、向かうべき方向、ならびにそのための施策について討議し、政策提言を行うことが目的。シンポジウムに先立って、各学会の会長を対象とするアンケート調査を実施しており、その結果をもとに提言文の作成、および当日のディスカッションが行われた。

 学会の代表者が集まり声明を発表するといった取り組みは、今回が初めてではない。昨年12月、20学会(33万人会員)の代表が集まり、政府の事業仕分けによる科学・技術および高等教育予算の大幅削減に対し緊急合同声明を発表している。同声明は政府および国民に強いインパクトを与えるものとなり、同様の取り組みを引き続き行っていく必要があるという認識が関係者の間で広がっていた。今回のシンポジウムは独立行政法人対象の事業仕分け作業が行われる期間(23日から28日)に合わせて企画されており、2010年度科学技術予算の減少を踏まえて、2011年以降の予算決定に影響を与える狙いがある。

 シンポジウムでは、初めに日本化学会会長ならびに日本学術会議第三部会長の岩澤康裕氏(電気通信大学教授・本学名誉教授)が趣旨説明を行った。科学研究・技術開発投資は一国の国際競争力に大きな影響を与えるため、先進各国やBRICs諸国は毎年高等教育と科学研究への公的投資を増大させている。しかし我が国は、資源に乏しいためいっそう科学技術を重視しなければならないにもかかわらず、高等教育費を減少させている。このような現状が続くと日本は国際競争に負け、国家衰退を来す恐れがあると岩澤氏は述べ、その兆候として現在、日本の論文数が諸先進国に比べ著しく減少していることを紹介した。

 シンポジウムのメインプログラムとしてパネルディスカッションが行われ、26学会の代表がパネラーとして登壇し、アンケート結果を踏まえて議論を展開した。「現在の科学・技術政策を評価できるか」との問いに対し、日本数学会会長の坪井俊氏(本学教授)は「評価する」と答え、その理由として、政府が科学技術を、経済成長のプラットフォームとして捉えていることを挙げた。しかし不十分な点もあるとして、欧米と比べ予算が少ない、学問および人材を育成するという認識に欠けているといったことを指摘した。一方、情報処理学会会長の白鳥則郎氏(東北大学電気通信研究所教授)は「評価しない」とし、日本の科学技術政策は「選択と集中」が行き過ぎているとした。また、事業仕分けを批判し、「目利きによる評価」「評価の評価」が必要だと述べた。日本生化学会会長の北潔氏(本学教授)は、ポスドク問題について言及し、若手研究者が実力を発揮できる環境の整備が必要だと述べた。

 パネルディスカッションに続いて26学会会長声明が発表され、(A)研究教育予算の改善、(B)研究資金の過度の集中の是正と多様な評価・価値観、(C)女性・若手研究者支援と奨学金の充実、(D)その他、の4項目を柱とする政策提言がなされた。なお、声明の要旨は以下のとおりである(文責編集部)。

(A)研究教育予算の改善
 @運営交付金、私学助成金充実による大学・研究機関の基盤強化
 AGDP比1%以上の研究費確保
 Bオールジャパンで取り組む必要のある中規模研究や、多数の研究者が長年にわたり行う大規模研究などに対応した、多様な研究費の確保
 CSpring‐8やKEKなどの大型施設の必要性に対する理解

(B)研究資金の過度の集中の是正と多様な評価・価値観
 @研究機能を一部の大学に集中させる政策の見直し
 A基礎研究の多様性に配慮した、競争的資金制度の見直し

(C)女性・若手研究者支援と奨学金の充実
 @女性研究者の成長を支える施策に対する安定的な予算配分
 A学位取得者に対するキャリア支援活動の充実
 B博士課程学生に対する奨学給付金の支給

(D)その他
 @「学術法人法」制定による学術団体の活動支援
 A「科学・技術の日」制定
 B政府に科学技術政策の羅針盤と的確な情報を提供できる仕組みの構築
 C政府と科学者・技術者との連携強化


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