1092号(2010年8月25日号)

1面主要記事

「持続可能性」担う人材育成―SSC設立記念シンポ開催

  理学部一号館小柴ホール

 「サステイナビリティ学」の樹立とそれに基づいた人材育成を掲げて活動してきた本学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の成果を土台として、サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC)が設立され、記念シンポジウムが7日に理学部一号館小柴ホールで開かれた。シンポジウムでは、小宮山宏本学前総長(現:株式会社三菱総合研究所理事長)をはじめとする4人の有識者が講演を行い、地方自治や研究、教育といった様々な観点からサステイナビリティ学の可能性を提示した。

 サステイナビリティは、世界が環境問題や資源問題などに直面する中で近年注目されている概念。「持続可能性」とも訳され、「次世代のニーズを損なわずに現世代のニーズを追求する開発」という定義(1987年の「環境と開発に関する世界委員会」によるもの)がよく知られている。既存の学問の枠組みでは捉えきれない新概念の登場に対して、本学ではIR3Sを設立し、参加5大学の研究拠点および協力6機関との連携の下、領域横断的な新学術「サステイナビリティ学」の確立に取り組んできた。今回創設されたSSCは、啓蒙活動や教育システム構築をはじめとするIR3Sのこれまでの成果を受けて、政府、自治体、企業、NPOに対するアウトリーチ活動やネットワーク作り、およびサステイナビリティの考え方を身につけた次世代リーダーの育成など、より具体的なプログラムを展開していく機関として位置づけられている。SSCの理事長には小宮山前総長が就任した。

 シンポジウムでは最初に、元北九州市市長の末吉興一氏(財団法人国際東アジア研究センター理事長)が講演し、サステイナビリティ実現に向けての北九州市の歩みを紹介した。北九州市は、深刻な公害を市民、企業および自治体の取り組みによって克服した歴史を持ち、その経験を生かして東アジア・東南アジア諸都市との間で環境改善のための協力関係を築いてきた。現在も循環型社会、低炭素社会の実現のために取り組んでいるという。末吉氏は北九州市が環境先進都市として発展できた要因を、「市民・企業・大学・行政が、できることから、アジアを意識しながら、現場での実践を重ねてきた」ことにあるとまとめ、持続可能な都市づくりのためには、環境・経済・社会を統合することのできる「頭脳」が必要だと述べた。

 次いで、茨城大学地球変動適応科学研究機関の三村信男機関長が講演を行った。三村教授は農業や災害、伝染病など様々な観点から地球温暖化の日本における影響を説明し、また世界への影響としてフィリピン・マニラの洪水の危険性を紹介した。また、緩和策と適応策の両方が必要だという観点から温暖化問題への対応について説明し、気候変動への対応を、成長を促す駆動力にするものとしてサステイナビリティ学の重要性を訴えた。

 休憩をはさんで後、本学新領域創成科学研究科の味埜俊教授が、サステイナビリティ学教育の意義について講演した。味埜教授は2007年に開設された「サステイナビリティ学教育プログラム」をはじめとする本学およびIR3Sの教育プログラムを紹介し、持続可能な社会の実現のためには問題の複雑性・多様性を理解する目を持ったリーダーの創出が不可欠だと述べた。そして多様性を確保するために、今後もSSCを軸に教育連携を進めていくとした。

 最後に小宮山前総長が「持続可能社会の実現に向けて」という題で講演した。小宮山前総長は2050年にはエネルギー効率が現在の3倍、再生可能エネルギーが2倍になっており、物質循環システムが構築されているとする「ビジョン2050」を提示し、それが十分可能であることを様々なデータを元に示した。また、自然エネルギーや省エネに関する産業の成長(グリーン)、高齢社会に不可欠な産業の成長(シルバー)、知識の爆発と社会の複雑化に対応する「知の構造化」(ゴールド)の三つがこれから重要になると述べた。さらに、この三つを満たした社会をグリーン・シルバー・ゴールドに輝く「プラチナ社会」と呼び、日本は市民主導でこの「プラチナ社会」を目指すような国家モデルへ転換されなければならないと主張した。小宮山前総長の講演は、環境問題や高齢化に対し前向きにむかっていくことで、負担が増え経済成長が見込めない未来ではなく、希望的で快適な未来を築くことができるということを提示したものであった。

 シンポジウム終了後は懇親会が開かれ、SSC設立というサステイナビリティ実現に向けての一歩が祝われ、参加者は歓談を楽しんだ。


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  • 「持続可能性」担う人材育成―SSC設立記念シンポ開催(8/7)

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