異種動物内で膵臓作製
医科研・中内教授ら
本学医科学研究所の中内啓光教授と科学技術振興機構(JST)の小林俊寛研究員らは9月3日、マウスの体内にラットの多能性幹細胞由来の膵臓(すいぞう)を作ることに成功したと発表した。この研究は、臓器再生医療の確立を目指すJSTのプロジェクト「中内幹細胞制御プロジェクト」の一環として行われ、9月3日発行の米国科学雑誌「Cell」に掲載された。
現在、臓器不全症の治療には臓器移植や人工臓器が用いられているが、ドナー不足や生体適合性の問題など解決すべき多くの課題を抱えている。そこで注目されているのが、生体の全ての組織の細胞に分化が可能な多能性幹細胞を用いた技術である。以前から知られている多能性幹細胞としてES細胞を挙げることができるが、これは受精卵からのみ樹立できるものであるため、医療分野で用いるには限界があった。しかし近年、分化が進んだ体細胞からでも多能性幹細胞を作ることができるということが発見され、このiPS細胞技術によって、自分の細胞から、移植用の臓器を生体外で作る道が開かれた。
しかし、臓器のような三次元構造物を生体外で作るのは困難を極める。そこで中内教授らが注目したのが「胚盤胞補完法」という技術であった。これは、特定の細胞を作る能力を欠損しているマウスの胚盤胞(受精3〜4日後の受精卵)に正常なマウス由来の多能性幹細胞を注入すると、欠損した細胞が完全に多能性幹細胞由来のものに置き換えられるというもの。この原理を用いれば、ある動物の臓器を種の異なる動物の体内で作ることができると考えられる。
中内教授らは、膵臓ができないように遺伝子操作したマウスの受精卵が胚盤胞に達した時点で正常なラット由来の多能性幹細胞を注入し、仮親の子宮に移植した。その結果、生まれてきたマウスの膵臓はラット由来のものに完全に置き替わっていた。このマウスは無事成体に発育し、膵臓もインスリンを分泌するなど正常に機能していることが確認された。
この研究成果により、発生過程を利用して異種動物の体内に臓器を作り出せるということが示された。これを応用すれば、ヒトの臓器の形成メカニズムを異種動物の体内で解析することが可能となる。またそれだけでなく、大型動物の体内で患者に移植する臓器を作るという、再生医療の新たな可能性も開かれたといえる。
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