836号(2001年7月15日号)

1面主要記事

■布の構造を評価

うねり係数を指標に導入
生産技術研究所 吉川助教授ら

 本学生産技術研究所情報・システム部門吉川暢宏助教授は7月11日、布材料の利点を活かし、より軽い機械や構造物を製造するために、簡便かつ高速で布材料の強さや変形をシミュレーションできる手法の開発を発表した。

 材料の挙動をコンピュータシミュレーションする方法として、有限要素法と呼ばれる方法が広く利用されている。有限要素法の起源は1960年代にさかのぼり、米国の航空機産業を中心に手法の開発が進められ1980年代以降のコンピュータ速度の飛躍的上昇により、機械・構造物の強さや変形をシミュレーションする手法として、広く設計および生産の現場で活用されるようになった。
グラスファイバーを平織した
布の引張実験(糸の傾き45°)
開発した手法によるシミュレーション結果
 有限要素法では、物体を連続体、すなわち均質でひとかたまりであるとみなすことを出発点とする。そのため、鋼構造物等の硬くて塊状の機械・構造物については精度よく安全性が評価できるとされているが、柔らかで縦糸と横糸が絡み合っている布については評価が難しいとされてきた。
 今回開発した手法では、うねり係数という指標を導入することで、従来の有限要素法では成し得なかった布材料独特の局所的な変形様式を的確に表現することが可能となった。
 今までの有限要素法では、要素と呼ばれる小さな領域内部の変形を、節点と呼ばれる要素境界の点での状態量で表していた。うねり係数を、その状態量として扱い得るとしたところに、今回開発した手法の特徴がある。これにより、糸一本一本に注目する必要はなく、布をある程度小さな要素に分けるだけでよいため、簡便かつ高速でシミュレーションを行うことが可能となった。
 現状では、簡単な試験片を用いた実験結果と、開発したシミュレーション手法により得られた結果を突き合わせることで、手法の妥当性を示すにとどまっている。幅広の平織布を、上縁と下縁で固定して引張荷重を加える。糸の傾きが45度の場合には、布の四隅からしわに相当する線が走る。しわの発生する部分は、うねり係数が極端に大きく変化するところとして評価することができ、シミュレーション結果と実験がよく一致していることがわかる。
 開発した手法によれば、平織布を用いた機械・構造物の強さや変形を容易に短時間で評価できるようになると思われる。それを実証するためには、開発した手法を実際の機械・構造物設計へ適用する必要がある。


■最速のコンピュータ開発

1秒間に32兆回計算可能に
理学系研究科 牧野淳一郎助教授ら

 本学大学院理学系研究科の牧野淳一郎助教授らは、米プリンストン高等研究所のグループと共同で、世界最速の天文計算用コンピュータ「GRAPE6」を開発した。GRAPE6は最新のパソコン2万台分の性能を持っており、一秒間に32兆回の計算が可能だという。
 牧野助教授らは、1cm角の大規模集積回路(LSI)を1024個並列につなぐことで、約35万個の演算機を同時に動かせるようにした。
 これまで最速だった米ローレンス・リバモア国立研究所の計算機はバスケットボールのコート2面分の大きさで、1秒間に12兆8千億回の計算が可能だった。それに対し、GRAPE6はその2.5倍の性能を持っており、大きさも家庭用大型冷蔵庫2個分に収まったことも大きな特徴である。
 「50万個の星からなる球状星団のシミュレーションなら一日でできるようになり、天文学の新たな成果につながる」と牧野助教授は話している。(3面に関連記事)


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