840号(2001年9月15日号)

1面主要記事

■最小の抗電界達成

低電圧で書き換え可能に
生産技術研究所宮山教授ら

 本学生産技術研究所の宮山勝教授、野口裕二助手らの研究グループは、従来よりも著しく小さな電圧で書き換え可能な強誘電体の開発に成功した。これはタンタル酸ストロンチウムビスマス系の多結晶体で、ストロンチウムの一部を希土類元素のランタンで置換し一部に空孔を導入することで、メモリ材料として実用可能な強誘電体では最小の抗電界を達成したもので、ICカードなどへの利用が期待されている。

 IT社会の進展に伴い、電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリの要求が高まっている。強誘電体の残留分極を利用する強誘電体メモリは、半導体を用いた不揮発性メモリと比べ消費電力が小さく、高速かつ高回数のデータ書き換えが可能であることから、次世代のメモリとして開発が精力的に行われている。
 強誘電体メモリ材料の分極特性には、@残留分極が大きい、A抗電界が小さい、B耐疲労特性に優れることが求められる。材料にはチタン酸ジルコン酸鉛やビスマス層状構造強誘電体が使われている。特にビスマス層状構造強誘電体は、残留分極はやや小さいが、抗電界が比較的小さく耐疲労特性が非常に優れているという長所がある。また有害な鉛を含まないため、環境保全にも有効である。そのためビスマス層状構造強誘電体の研究開発が進められているが、その実用化にはより低電圧での作動と大きな残留分極の実現が重要な課題となっていた。
 宮山教授らは、タンタル酸ストロンチウムビスマスのストロンチウムの一部を希土類元素のランタンで置換するとともに、ストロンチウムの位置に空孔が導入される組成を作り、酸化ビスマスや炭酸ストロンチウムなどの原料を混合して空気中で焼成させ無配向の多結晶体を得た。この置換の比率を変化させ、ビスマスを過剰にしたところ、抗電界がタンタル酸ストロンチウムビスマスの半分以下になった。
 抗電界が小さい強誘電体材料を用いると使用時の消費電力を低く抑えることができるため、ICカードなどへの強誘電体メモリの利用がさらに進展すると予想される。また今回用いた格子欠陥制御による物性向上の手法は他の強誘電体や圧電体にも適用できるものであり、今後この分野での研究開発の展開が期待される。


■ビジョンチップ開発

高速の対象を高精度で認識

 本学大学院情報理工学系研究科の石川正俊教授らの研究グループは、日本プレシジョン・サーキッツと共同で、画像処理機能を内蔵した高速対象追跡ビジョンチップを開発した。対象の位置情報を計算する対象追跡回路を初めて搭載し、高速に動く物体の高精度な認識ができる。
 従来のビデオカメラによる画像処理(ビデオレート)が演算間隔33ミリ秒以上なのに比べ、同1ミリ秒以下と30倍の高速処理が可能なため、制御・認識分野への幅広い応用が考えられる。
 開発したのは7mm角のチップで、64×64個の画素と、これに対応した光電素子と信号処理ユニットを内蔵している。各画素ごとに演算回路を設けた完全並列型のために、高速で追跡対象の判別・捕そく、位置情報の算出ができる。このため工作機械におけるワークの位置決め、ロボットによる対象追跡をはじめ各種検査装置、医療福祉、ヒューマンインターフェースなどさまざまな用途が考えられる。
 製品化は数年後とみられるが、今後はテストを重ねるとともに、ユーザーが参加する協議会も本格組織して、実用化研究を進めていく。


■キャンパス情報

 第24回生研公開講座
 イブニングセミナー「都市のサステナビリティ」

▽講義日程 平成13年9月28日〜平成14年1月18日の毎週金曜日 午後6時〜7時30分(10月19日、11月23日、12月28日、1月4日は休講)
▽会場 生産技術研究所 B棟7階第一会議室
▽講義日程

講義題目担当教官
28「イントロダクション」魚本 健人教授
10「都市気候学」大岡 龍三助教授
1012「都市の水循環系の再生」虫明 功臣教授
1026「都市のサステナビリティ計測―人工衛星からのリモートセンシング」 安岡 善文教授
11「都市の3次元マッピング」柴崎 亮介教授
11「都市道路交通のTDM(Travel Demand Management)」桑原 雅夫教授
1116「サステナブルビルディング」野城 智也教授
1130「集落の様相とサステナビリティ」藤井 明教授
12「歴史に学ぶ都市の栄枯盛衰」藤森 照信教授
101214「サステナブル・コンクリート」岸 利治助教授
111221「災害と都市のサステナビリティ」目黒 公郎助教授
1211「鉄骨造建物の耐震改修―補強して長持ちさせる技術―」大井 謙一助教授
1318「都市における空間利用のダイナミズムとサステナビリティ」曲渕 英邦助教授

▽受講料 無料
▽問い合わせ先 東京大学生産技術研究所(庶務掛)
TEL 03-5452-6008〜9
FAX 03-5452-6071



■他号1面主要記事

 第853号(2月25日号)
 第852号(2月5日号)
 第851号(1月25日号)
 第850号(1月15日号)
 第849号(12月25日号)
 第848号(12月15日号)
 第847号(12月5日号)
 第846号(11月25日号)
 第845号(11月15日号)
 第844号(11月5日号)
 第843号(10月25日号)
 第842号(10月15日号)
 第841号(10月5日号)
 第840号(9月15日号)
 第839号(9月5日号)
 第838号(8月25日号)
 第837号(8月5日号)
 第836号(7月15日号)
 第835号(7月5日号)
 第834号(6月25日号)
 第833号(6月15日号)
 第832号(5月25日号)
 第831号(5月15日号)
 第830号(5月5日号)
 第829号(4月25日号)
 第828号(4月15日号)


■特集記事link

 学部長メッセージ

 研究所紹介

 知の肖像

 淡青手帳

 Soccer新世紀

 東京六大学野球


■編集部企画

 こころの教育

 今、純潔がトレンディー

 東大野球部DUGOUT

 東大OBの偉人伝


■主 張

 世界的・長期的な意識を
  第850号(1月15日号)

 東大の誇りを持ち行動を
  第849号(12月25日号)

 共同で「開かれたアジア」を
  第842号(10月15日号)

 大学改革に活発な議論を
  第836号(7月15日号)

 新入生へのアドバイス
  第828号(4月15日号)

 年頭所感
  第821号(1月15日号)


■Summer Guide 2001

夏のリゾート案内


■国連・NGO特集

前国連広報担当事務次長
 法眼 健作 氏

国連大学副学長
 鈴木 基之 教授

日本国際連合協会
 専務理事
 黒田 瑞夫 氏

国際連合広報センター
 所長
 高島 肇久 氏

NGO活動推進センター
 事務局次長
 山崎 唯司 氏

財団法人オイスカ
 事務局次長
 亀山 近幸 氏