880号(2003年1月25日号)

1面主要記事

■新空調システム開発

アジア型通風取り入れる
生産技術研究所加藤教授ら

 生産技術研究所記者会見が15日、生産技術研究所第一会議室で開催された。この会見は、生産技術研究所における多様な工学研究の成果を紹介するとともに、科学技術の現状と将来について親密に話し合うことを目的としている。今回で41回目を迎えた。

 今回の記者会見では、本学生産技術研究所の加藤信介教授が世界初のアジア型冷暖房方式の開発「自然通風併用省エネ型放射冷暖房システム」≠ニ題して発表を行った。「自然通風併用省エネ型放射冷暖房システム」は、アジア型の室内の通風などで屋外環境を取り入れる全く新しい発想による建物内の空調システムである。
 この空調システムは今後、サステナブル社会実現、地球環境問題の緩和のため炭酸ガス削減が急務とされていることを背景として検討が進められた。
 従来、室内の空調を行う場合には、空間の暖房負荷および冷房負荷が屋外の気象要素の影響が大きいものとして、建物の気密性と断熱性を確保し、室内を閉じて冷房、暖房を行ってきた。これとは逆にこのシステムは、年間を通して室内を直接外気により通風換気し、省エネルギーかつ快適な室内環境を実現する新しい空調方式だ。
 このシステムは、まだ先行研究の段階にあり、その有効性はシミュレーションで確認されたのみの段階であるが、省エネルギー性は通常の室内冷暖房システムに比べ、40%以上になると評価されている。
 この夏には、日本学術振興会の未来開拓研究の一環としてベトナムハノイでの住宅で実証研究が開始される予定であり、千葉の本学生産技術研究所西千葉実験場で、モデルハウスを用いた実証研究を自主研究として開始する予定である。


■新専攻を設立

 情報科学から生命を研究
 新領域創成科学研究科

 新領域創成科学研究科に4月から、情報生命科学専攻が新設される。
 ゲノム研究は膨大な配列情報を産出すると同時に、バイオインフォマティクスという新しい研究分野を創出した。バイオインフォマティクスとは生物学(バイオ)に必要な情報技術を研究する(インフォマティクス)ことを目指す分野だが、この分野が情報科学に大きな影響を与えるほどの重要な学問であると認識されたのは最近のことである。バイオインフォマティクスには、生命科学やバイオ産業の効率化や支援に必要な情報技術を開発するという側面と、情報科学的な手法や考え方を用いて生命を研究するという側面があるが、情報生命科学専攻ではその後者に重点を置き、教育研究を行う。
 情報生命科学専攻は「バイオ情報科学大講座」と「バイオシステム科学大講座」からなる基幹講座と協力講座から構成される。基幹講座は2大講座5分野6研究室から成り、協力講座は2講座4研究室から成る。
 本年度の入試は修士課程、博士課程とも4月9日(火)から11日(木)にかけて行われるが、これに先立ち3月6日(木)には、弥生講堂で入試説明会が行われる。


■インフルエンザの仕組み解明

 医科研・河岡教授ら

 東京大学医科学研究所の河岡義裕教授と広島大学の藤井豊助手らは、人間の体内でインフルエンザウイルスが増殖する仕組みを解明した。インフルエンザには決定的な治療薬がないが、今回の成果を手がかりに効果の高い治療薬やワクチンを開発できる可能性があるとみている。
 研究グループは人間の培養細胞にウイルスの遺伝子であるRNA(リボ核酸)を送り込み、ウイルスがどれだけできるかを調べた。全部で八本あるRNAがひとまとまりになって細胞膜に包まれ、新たなウイルスとなることが分かった。RNAを一本でも減らすと、増殖する量が格段に少なくなった。八本のRNAが細胞膜に取り込まれるには、各RNAのうち、たんぱく質を作る情報を持つ特定部分が欠かせないことも確かめた。


■RNA切断の新技術
 特定部分の切断可能に

 先端科学技術研究センターの小宮山真教授らは、狙ったリボ核酸(RNA)を切断して働きを抑える手法を開発した。
 従来手法では切断できないRNAがあるが、新手法なら原理的には全種類切断できる。がん関連遺伝子を切断できるようにすれば、新しいがん治療薬になる可能性がある。遺伝子の機能解析などにも有望とみられる。
 遺伝子は細胞内でDNA(デオキシリボ核酸)の形で保存され、たんぱく質を作る際にRNAに変わる。細胞内では常時多数のRNAが存在するが、新手法なら、その中の特定種類のRNAの特定部分を切断できる。



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